【特集2】温室効果ガスの約4割を排出 CO2削減で果たす大きな役割
原子力については、再稼働の推進が当面の課題であるが、50年カーボンニュートラル実現にはリプレース・新増設が必要である。21年5月の基本政策分科会で地球環境産業技術研究機構(RITE)が報告した「2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析」でも、全てのシナリオにおいて原子力は上限制約の上限まで活用することが最適化の結果として得られている。
原子力の課題は技術経済的な問題ではなく社会政治的な問題である。経済団体連合会など経済界からは原子力の長期的活用について強い支持が表明されているが、国民の不安は依然強く、政治が動いていないことが原子力の未来に大きな影を落としている。
最後に率直に言うと、私は地球温暖化対策の長期目標として温室効果ガスの正味ゼロ排出を支持しているが、50年カーボンニュートラルには懸念を感じている。
気候安定化の実現には、気温上昇をどの程度に抑制するかにかかわらず、最終的には温室効果ガスの排出を実質的にゼロにする必要がある。パリ協定の長期目標は「世界的な平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃より十分低く保つとともに1.5℃に抑える努力を追求する」である。その後、18年10月に公表されたIPCCの「1.5℃特別報告書」は、気温上昇を1.5℃に抑制するためには50年ごろに温室効果ガス正味ゼロ排出が必要なことが示された。
この1.5℃特別報告書は世界の温暖化対策を加速させ、欧州では50年に温室効果ガスの正味ゼロ排出を目指す政策が登場した。社会運動や政治は極端に走る傾向があるが、その典型である。地球温暖化を抑制し気候を安定化させることは異論のない正義である。その正義をより早く実現するといわれれば、反対しにくい。
しかし、これは視野の狭い正義である。温暖化対策を極端に加速すれば、経済はどうなるのか? 途上国の貧困問題はどうなるのか? SDGsの17目標の実現はどうなるのか? 新型コロナ対策でも浮き彫りになったように、人類共通のリスクに立ち向かうには視野を広く持ち、バランスの取れたリスク対応が求められる。
脱炭素化が中国の国益に 産業界のリアリズムに期待
努力目標だった50年カーボンニュートラルが欧米の目標として採択され、わが国も追従した形であるが、気候変動対策は世界全体で取り組まないと効果がない。特に最大の排出国である中国は30年までの排出増分だけで、わが国の排出量を上回る見込みである。
太陽光や風力、蓄電池や原子力でも世界をリードしている中国にとって、先進国のカーボンニュートラルは国益にかなっているという側面もある。ビジョンだけでは現実は動かない。産業界のリアリズムに期待したい。
やまじ・けんじ 1977年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。電力中央研究所を経て94年東大電気工学専攻教授。2021年地球環境産業技術研究機構理事長・研究所長。
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