【特集2】カーボンニュートラルの達成 電源の脱炭素化と電化で実現へ
50年も火力発電は必要に CCSでCO2を貯留
松本 それでは、蓄電池ばかりに期待するわけにはいきませんね。
池辺 そう思います。再エネが主力電源となる50年の時点においても、一定量の火力発電は必要です。気象条件による出力変動に対しては、火力発電による調整力をバックアップとして確実に確保することが必要になるからです。
また、太陽光や風力などの非同期電源は、慣性力(タービンが回転し続ける力)や同期化力(発電機どうしが同じ速度で回ろうとする力)といった系統の安定化に資する機能を有していないので、系統全体の安定性を保つ意味でも一定程度の火力が必要となります。
今後、火力発電を利用しながらカーボンニュートラルを実現するには、CCS(CO2回収・貯留)、CCUS(CO2回収・利用・貯留)の実用化が期待されます。CO2を発電所の段階で捕えてしまい、それを地下に貯留したり、再利用したりしていく。
しかし、今の時点ではコストの面で実用化は難しい。CCS、CCUSでの革新的イノベーションがこれから必要になります。さらに、発電時にCO2を排出しない水素、アンモニアを燃料として利用することも重要です。これらの研究開発をさらに進めてほしいと思っています。
松本 電力業界は、カーボンニュートラルには電源の脱炭素化とともに、電化推進の取り組みが必要と訴えています。需要側での取り組みはどう考えていますか。
池辺 実は、電力業界が排出しているCO2は、日本全体の約4割です。残りの約6割は、鉄鋼業などの産業や自動車、航空機、それに工場やビル、家庭の給湯や調理などに使う燃料の燃焼などによるものです。ですから、それらの分野で電気を利用するように変えていくことが大切だと思っています。
なぜなら、電気は再エネ、原子力はもちろん、CCS、CCUSを火力発電に備え付けることで、CO2を排出せずに生み出すことができるからです。あらゆる分野を電化していくことはとても重要で、それができなければカーボンニュートラルは実現できないといってよいのではないでしょうか。
30年度46%削減への対応 九州電力の例が参考に
松本 30年度に13年度比46%削減についてはどう対応する考えですか。30年まで10年もありません。
池辺 10年もありませんから、極めてチャレンジングな目標だと思います。ただ、その中で参考になると思うのは、自分の会社で恐縮ですが九州電力の例です。九州電力は19年度に13年度比でCO2の排出量を50%削減しました。
松本 既に30年度の目標を達成しているわけですね。どのようにして実現したのでしょうか。
池辺 まず、原子力発電が再稼働したことです。加えてFIT(固定価格買い取り制度)が導入され、九州に太陽光発電などが大量に普及したことです。九州は1割経済とよく言われるのですが、人口も経済規模も日本のおよそ1割です。ところが、太陽光発電、風力発電などの再エネ設備は、九州に全国の17%が集中している。原子力の再稼働と再エネの普及により、九州電力がお届けする電気のうち58%はCO2を排出せずにつくられたものです。kW時当たりのCO2排出量が少ないため、温対法などで温室効果ガス排出量の報告義務のある企業や工場、事業者の皆さんに喜ばれています。
松本 九州電力のケースは良い参考例になると思います。
池辺 電力各社は今、太陽光発電や風力発電などの導入に積極的に取り組んでいますから、再エネの普及は進むでしょう。もう一つ、30年度までにCO2の排出量を大きく減らす鍵を握るのは、既存の原子力発電所の再稼働だと思っています。
そして、あらゆる分野での電化も進めなければいけません。10年間で簡単に電化が進むとは思っていません。しかし、全力を挙げて取り組まなければいけないと考えています。
例えば、非常に高温の熱を使用するような工場では、ヒートポンプなどの利用はまだ技術的に難しいかもしれません。そのような工場などでは、過渡期の方策として燃料を石油などから天然ガスに代えることが必要かもしれない。しかし、それ以外は極力、電気を使っていただくようにしたい。
50年にも影響する話ですが、今から建てる家やビル、公共の建築物などを省エネ仕様、電化仕様にすることも大切だと思います。それらの建物は50年ごろにもまだ使われているでしょうから、カーボンニュートラルの実現にも欠かせないことだと思っています。
また、このように電化を進めることで、電力の消費量は増えていくと見込まれています。電気が足りなくなっては困りますので、再エネ、火力、原子力など、全ての電源を最大限活用していく必要があると考えています。