【特集2】カーボンニュートラルの達成 電源の脱炭素化と電化で実現へ

2021年8月2日


高温ガス炉は水を熱分解し効率よく水素をつくる (提供:日本原子力研究開発機構)

松本 昨年1月、ドイツを訪問して脱炭素化戦略などをヒアリングしてきました。その中で印象的だったのが、水素エネルギーへの取り組みです。

 ヘルテン市では風力発電由来の水素をためて、燃料電池自動車の燃料に利用するなど、実証研究を進めていました。欧州では水素の利活用が脱炭素化を進める上で、欠かせないと考えているようです。今後の水素エネルギーの在り方についてはどう考えていますか。

池辺 水素もしくはアンモニアを使用する発電は、電力業界としても一生懸命、研究開発を進めたいと思います。松本さんはドイツの例を挙げられましたが、日本でも例えば北海道には風力発電の適地が多くあります。そこから首都圏などの需要地まで送電網を拡充して電気を運ぶのも一つですが、例えば水を電気分解して水素をつくり、その水素を運ぶこともできます。そのような研究もしていくべきだと思っています。

 また、この分野でも原子力が欠かせないと考えています。仮に火力発電で発電した電気で水素をつくる場合、最も効率のいい最新鋭の天然ガスコンバインドサイクルでも、発電効率は60%くらいです。さらに、水を電気分解して水素をつくる過程でもロスが生じます。それでは非常にエネルギーがもったいない。

 しかし、原子力の中でも高温ガス炉では電気分解ではなく、水を熱分解して水素をつくることができるため、効率よく水素を取り出せるといわれています。ですから、原子力を利用して効率よく水素を生産することで、脱炭素社会の構築に電力業界が大きく貢献できる可能性があると思っています。

脱炭素化と電化推進に全力 技術開発では国の支援も

松本 最後にお聞きします。カーボンニュートラルの実現と、低廉・安定的なエネルギー供給は両立できますか。

池辺 両立させなければいけません。そのために、われわれは電源の脱炭素化と電化の推進に全力で取り組んでいきます。一方、蓄電池やCCS、CCUSなどの脱炭素の技術については、開発の基礎的な部分では、国による支援も必要だと思っています。

 松本さんも心配されていると思いますが、脱炭素化を進めて電気代が上がっては、国民も産業界も困ります。今、再エネを普及拡大させるため、再エネ賦課金として、一般家庭でkW時当たり約3円が電気料金に上乗せされています。賦課金の分、競合する都市ガスなどと比べて価格面で不利になるわけですが、もしお客さまが「電気は料金が高いからガスのままにしよう」と考えられたら、電化は進まず、カーボンニュートラルの実現は難しいでしょう。

 カーボンニュートラルの実現と低廉・安定的なエネルギーの提供を両立させるために、どんな障害物を取り除いていくべきか、どんな政策的支援が必要か、そしてどんな革新的イノベーションを起こしていくのか。その時々の技術水準を見ながら、全ての電源で最大限努力していく。カーボンニュートラルに向けてはいろいろな道があってよいわけですから、いろいろなオプションを準備して、それらについて提言することが、われわれ電気事業の実務に携わる者の責務だと思っています。

松本 今日は非常にチャレンジングなお話をお聞きしました。ありがとうございました。

いけべ・かずひろ 1981年東京大学法学部卒、九州電力入社。2016年執行役員経営企画本部副本部長兼部長、17年取締役常務執行役員コーポレート戦略部門長、18年6月代表取締役社長執行役員。20年3月から電気事業連合会会長を務める。

まつもと・まゆみ 上智大学外国語学部卒。専門は環境エネルギー政策論・環境コミュニケーション。環境とエネルギーの観点から、持続可能な社会の在り方をテーマに研究に取り組む。

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