【特集3】送電線特有の条件にも対応 自動点検システムを共同開発

2021年8月3日

【ブルーイノベーション、東京電力HDなど】

東京電力ホールディングス(HD)、東電パワーグリッド(PG)、テプコシステムズと、ドローン・ロボットサービスプロパイダーのブルーイノベーション(BI)は、ドローンで送電線を自動点検するシステムを共同開発した。

本システムの核となる技術が、BIの開発した「Blue Earth Platform(BEP)だ。BEPは、ドローン、自律型ロボットなどさまざまなデバイスやアプリケーションを連携させて運用するプラットフォームで、地図情報や接続機体の位置情報、センシングした各種情報のほか、外部APIとの連携も行える。異なる用途のソリューションを同一のプラットフォーム上で一元管理できる特長がある。

倉庫管理や工場生産、オフィスの清掃、ドローンによる物流や警備、橋梁点検サービスに求められる技術はある程度類型化できるため、BEPでは各サービスに必要となる技術をパッケージ化。各種パッケージをカスタマイズすることでさまざまな用途に対応できる。

実際、ある石油精製プラントではBEPを基にしたドローン点検が採用されている。BIの熊田貴之社長は「当社が持つ技術パッケージを対象物に合わせて選択することで、システムの開発スピードは速くなり、コストも下げられる」とBEPの強みを語った。共同開発では線形の対象物をセンシングする技術を、送電線の点検向けにカスタイマイズして適用した。

送電線の点検風景

技術選定にも試行錯誤 国内外の電力会社に展開

送電線の点検は、①鉄塔に登る宙乗り点検、②高倍率の望遠鏡による地上からの目視点検、③ヘリコプターから送電線を撮影―から、点検場所に適合する方法で行われるのが主流。しかし①の場合、点検中は送電を停止しなければならず高所作業は危険が伴う、②は安全かつコストも安いが、高倍率の望遠鏡で複数張られる送電線のうち一本を目視で追う点検は検査員の技量に大きく左右される、人の足で入れない場所では③が用いられるが、①②と比べてコストが必要―などのメリット・デメリットがある。東電HD経営技術戦略研究所技術開発部の岸垣暢浩氏は「作業の省力化と点検の精度維持を両立するために、BIとの協業を考えました」と説明する。

BIもコア技術を持っているとはいえ、実点検業務に落とし込むために試行錯誤が繰り返された。

送電線は鉄塔間で真っすぐ張られているわけではなく金属が温度によって微妙に収縮するため、たるみを持たせて張られている。気温の変化で送電線の位置は日によって変わる上に、点検には送電線と一定の距離を保ちながらたるみに並行して飛べる機体でなければならない。さらに対象物である送電線をしっかりと検知する技術が必要で、送電線近くで発生している電磁波に左右されない通信方法を確保することや、突風や風雨にさらされても送電線を視認し続ける必要もある。

これら各種要件に適合する機体およびセンサー類を選定し、送電線点検に特化したシステムを開発し、「サービス化するまでには多くの時間がかかった」と、システム設計を担当したBIシステム開発部の千葉剛氏は振り返る。 東電PGには共同開発したシステムに対応したドローンが14台配備されており、まずは山間部と田園地帯の送電線点検で利用される。今後は電気工事会社に利用してもらうほか、国内他電力や海外展開も視野に入れている。

また東電PGサービスエリア内にある鉄塔の緯度・経度情報を収集し、指定した範囲を自動的に点検して帰ってくる自律点検システムの構築も考えているという。業界をリードする一層の進化を遂げそうだ。

システム運用画面