【目安箱/8月30日】KK両大臣に見る「責難は成事にあらず」の政治姿勢

2021年8月30日

武装勢力のタリバンが全土を掌握し、世界の視線がアフガニスタンに集まっている。この国のエネルギー事情はどのようなものかと調べてみた。戦乱が続き各種の統計が整備されておらず、はっきりしない。国際エネルギー機関(IEA)などの2010年ごろの状況を示した報告によると、発電能力220万kW分の水力発電があるものの、それ以外に大規模な設備はなさそうだ。自家発電が多く、無電化の地域も多い。

ちなみ日本の発電設備は、2億5951万kW(2016年)ある。そして岩手県葛巻町の毛頭沢(けとのさわ)集落が1962年に最後に通電して、日本では無電化の集落がなくなった(別説あり)。電力業界の現場を見ると、電力の発電・送電・配電について供給責任という思想に基づいて組織が作られ、運営されている。批判、破壊は誰もができるが、建設と維持をすることは大変な努力が必要だ。地道だが、大切なインフラの建設と維持を、電力、そしてエネルギー産業の人々は毎日続けている。

◆現場の事業者を攻撃する再エネTF

ところが、問題なくエネルギー、電力が供給されるという状況が当たり前すぎて、背景を深く考えない人が日本では多いようだ。仕事柄、エネルギーを巡る政府、自治体の審議会での議論を聞く機会がある。エネルギー業界の現場を無視し、そこで働く人や現実のビジネスを考えた形跡のない発言が、現場経験のない政治活動家や学識経験者、元官僚から頻繁に出ることに驚いている。福島原発事故以来、政治活動家からの電力業界への罵倒の多さ、その激しさに筆者は「おかしい」と不快感を抱いているが、その流れがまだ続いている。

河野太郎内閣府大臣が規制改革担当として「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF)を作った。昨年12月から始まった議論では反原発活動家が委員に名を連ね、再エネ問題で、ヒアリングと称して、事業者と経産省を激しい言葉で批判している。

この委員の一人で、「高木仁三郎氏(原子力研究者)の弟子」を自称する活動家との間で、不快なやり取りをしたことがある。あるシンポジウムで発言したところ、遮られて「あなたのいうことは分からない」と怒鳴られた。「(紳士的であった)高木さんのように、人の話を聞きなさい」と指摘したところ、さらに怒鳴られた。そういう行動をするメンバーが選ばれている。

第六次エネルギー基本計画を議論する総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会の場で、再エネTFは声明を発表。再エネ目標が「将来性の低い原子力や石炭火力の発電事業を延命させるため(中略)低く抑えられた可能性がある」、再エネ振興について「本気度を疑われかねないような偏った記述」などと強い言葉で批判した。

ところが、この提言には決めつけが多く、火力のバックアップ費用について間違った認識があった。(「もともと火力発電事業のコストで、再エネが入ろうが入るまいが発生している費用」と、バックアップ費用を再エネTFは指摘した。正解は再エネを導入するゆえに発生する既存発電での費用。)(エネルギーフォーラム記事「再エネTF議論の欠落点「原理主義」極まれりか」)https://energy-forum.co.jp/online-content/5930/

エネ基を議論している総合エネルギー調査会・基本政策分科会の専門委員は、同TFの活動とその提言を「最低限の知識さえ持たない委員で構成される組織の存在自体どうかと思う。まさに行政改革すべき対象ではないか」とまで批判した。間違いや罵倒が政府の機関で議論され、レベルの低い議論が公的な記録として残るのは、エネルギーに関わるものとして恥ずかしいことに思える。

◆「電気事業連合会は反社会勢力」河野氏発言

しかし河野氏は一連のTFの行動を許している。大臣になって静かになったが、彼はもともと電力業界へ過激な批判を繰り返している。エネルギーフォーラム2016年12月号では、河野氏の次のような発言を記録した、インタビュー記事が掲載されていた。

「「電気事業連合会は反社会的勢力だ」。河野太郎議員は開口一番、電力業界を批判した。「過激ではないか」と懸念を述べると、その真意を説明し始めた。河野氏によれば、電事連は任意団体であるという理由で、財務も活動の詳細も明らかにしていない。「金を使って影響力をおよぼそうとするが、説明責任や社会的責任をまったく果たしていない」。異論のある人は多いだろうが、これが彼の認識だ。」

既存の電力会社からなる電事連を「反社会勢力」などと言う河野氏が大臣をやっている。その意向を受けてできた再エネTFがおかしな形になるのは当然だろう。

現政権で、小泉進次郎環境大臣は、河野氏と同じように人気で、発言が常に注目される。小泉氏は、エネルギー業界に攻撃的ではないものの、温室効果ガスの削減を「セクシーに行うべき」だなど、理解に苦しむ発言を連発する。その彼から、既存の電力会社・エネルギー産業の現場への配慮や、現場で働く人々への敬意や感謝を聞いたことがない。中身のない思いつきを話しているだけだ。

◆現場で働く人々への敬意が大切

こうした現場を尊重しない人たちがエネルギー政策の責任ある立場に関与している状況は、普通に考えておかしいのではないか。日本のエネルギーを供給しているのは、企業人としてエネルギー産業で働く人たちだ。約2億5000万kW分の発電設備を作り、維持をしている。ところが、そうした現場を考えたこともなさそうな政治家や活動家が、エネルギーの未来を語り、現場で働く人、そして企業を批判し、自分たちが正しいかのように主張する。これでは、まともな政策が作れるわけがない。

「責難は成事にあらず」。このような言葉がある。他人を批判し、天下国家という大きな事を語ると、自分は仕事をしていると思い込んでしまう。ところが、実際に検証すると「口だけ」で、物事を動かさず、ただ混乱だけを生んでいることが多い。実務から遊離し、現場を動かさないからだ。これは現場を思いやり、尊重するという大前提が欠落しているからだろう。批判も、思いつきの発言も、現場で働く人への敬意があれば、簡単に言えないはずだ。

電力産業への批判に熱心な河野氏や、現場を想像したこともなさそうな小泉氏、その取り巻きの関わるエネルギー政策が、まともなものになるとは思えない。皮肉なことに、河野、小泉両氏は次期首相の人気投票でトップになるなど、国民的人気がある。日本のエネルギー問題で、この人らと取り巻きたちの行動が大きな影響力を持ち始めることが心配だ。