【コラム/11月1日】真鍋淑郎氏のノーベル賞受賞に寄せて 今後の地球温暖化研究への懸念と提言

2021年11月1日

田中博/筑波大学計算科学研究センター教授

地球科学者の真鍋淑郎氏が、2021年ノーベル物理学賞を受賞することが決まった。地球温暖化を予測する気候モデルを開発した功績が評価された。この分野での物理学賞受賞は初めて。真鍋氏と親交があった筑波大学の田中博教授に、今回の快挙へのコメントと、今後さらに注目が高まるであろう気候予測研究に関する提言を寄せてもらった。

米国プリンストン大学の真鍋淑郎先生がノーベル物理学賞を受賞したというニュースが10月5日夕刻に日本中を駆け巡った。ノーベル物理学賞に地球科学はないと思っていただけに、大変喜ばしい事である。かつてお世話になった身近な気象学者が、一夜にして世界中から注目されることになり、手の届かない雲の上の偉人となった気がしている。

真鍋先生とは私がアラスカ大学に助教として勤務していた時(1988~1991年)に親交があった。真鍋先生は同大地球物理学研究所(赤祖父俊一所長)の評価パネルメンバーのお一人で、私が米国在住の新人気象学者になったということで、ニュージャージの先生の自宅に招待していただいたこともあった。

真鍋先生(左)と著者

在米日本人気象学者のコミュニティーというのがあり、その仲間に入れてもらうために、著名な先生方を一通り訪問して挨拶回りを行った。60年代に大気大循環モデルを世界に先駆けて構築した真鍋氏(プリンストン大学)、笠原氏(アメリカ大気研究センター・NCAR)、荒川氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校・UCLA)、金光氏(米国気象センター・NMC)や、日本の気象学の父とも言われる小倉氏(イリノイ大)らを訪問した。

プリンストン大学の真鍋先生の机の上には「考えよ」という文字の盾が置いてあった事を思い出す。真鍋先生は校庭を散歩しながら立木を指さし、「この木1本を再現するのにも、高速のスパコン1台は必要ですよ。田中さん」と甲高い声で説明してくれるのだった。

気象学のブレークスルー 真鍋氏の放射対流平衡モデル

真鍋先生の64年の放射対流平衡モデルは気象学のブレークスルーと言える画期的論文であった。

鉛直一次元放射モデルにオゾン層を入れると、その加熱により成層圏が再現される。放射平衡だけだと対流圏が力学的に不安定になるので、不安定成層には対流混合が起きて、気温減率は6.5℃/kmで一定になる、としたモデルが放射対流平衡モデルである。一定の気温減率をパラメータとして外から与える対流調節の考えは、当時としては妥当だった。この部分については、後続の研究でさらに精緻化されている。この放射対流平衡モデルに基礎を置く67年の論文では、CO2が倍増すると気温が2.36℃上昇することを提示した。

これが地球温暖化研究のルーツとなり、今日の多くの気候予測モデルの礎を構築したことから、今回の受賞に繋がった。ただ、この論文の中心テーマは水蒸気量が変化した場合の応答を調べる実験であり、CO2倍増はついでの試み程度で導入されたものである。それが、50年後の御年90歳で、温暖化研究の追い風により大賞に花開くということは、好奇心旺盛な本人のエネルギーと才能ももちろんあるが、運が引き寄せた面もあると個人的には思っている。

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