【特集2】脱炭素社会への円滑な移行に貢献 メタネーションで他業界と連携

2021年11月3日

【インタビュー:本荘武宏/日本ガス協会会長】

日本ガス協会は、脱炭素社会実現に向けたアクションプランを策定した。2050年カーボンニュートラル、そして30年NDC(国別目標)達成にどう貢献していくのか。

―2050年カーボンニュートラル(CN)に向け、ガス業界としてどう取り組みますか。

本荘 昨年、菅義偉前首相が2050年CN宣言を打ち出し、30年に温室効果ガスを13年度比46%削減するNDC(国別目標)を掲げました。これにより、CO2削減の取り組み強化、脱炭素化への機運が高まりました。その実現に向けて再生可能エネルギーをはじめとした電力がよく話題になりますが、産業・民生部門のエネルギー消費量の約6割は熱利用で、その低・脱炭素化にガス体エネルギーが果たす役割は小さくありません。

 エネルギー基本計画案でも、50年までのトランジション期におけるガスへの燃料転換や将来の合成メタンの活用が示されるなど、都市ガスの有用性が評価され心強く受け止めています。トランジション期では累積するCO2を削減し、50年にはメタネーションなどによるCNメタンに置き換え、ガスのCN化の実現を目指します。既存のガス導管網を活用でき、社会的なコストを抑えつつ脱炭素社会への円滑な移行が可能な手段です。メタネーション設備の大型化やパイロット機の実証なども進め、商用化への道筋を付けていきます。

エネルギー政策は「S+3E」 電力含めた安定供給に努める

―30年46%削減も、非常に高い目標です。

本荘 50年までのCN実現には、さまざまな技術革新が求められ、かなりの時間を要します。そのためトランジション期で、社会全体のCO2排出量を削減しておくことが重要です。即効性のあるCO2削減策として、大規模産業用ユーザーなどの天然ガスへの燃料転換や、分散型システムの普及拡大による高度利用と併せて、CNLNGやCCU(CO2の回収・利用)などの普及促進を全国大で加速する必要があります。

 一方、エネルギー政策の要諦はあくまでも「S+3E」です。ガスの供給インフラの大部分は地中埋設であるため、昨今頻発している風水害への強靭性が高く、需要側でも停電時に熱と電気を供給できるコージェネレーションシステムや燃料電池が普及することで、災害時に一定の電力やお湯を賄うことができます。ガス業界として、LNGの安定調達やコージェネやガス空調などの機器普及を通じて、電力を含めたエネルギーの安定供給に努めます。また、電力需給変動への調整力として、デジタル技術で最適運用・制御するVPP(仮想発電所)を構築することで、系統安定化などにも貢献できます。

―実現に向けた課題は。

本荘 ガス事業者が、それぞれ果たすべき役割を認識し、努力と創意工夫に取り組むことが不可欠です。ただし、CN実現にはガス業界だけでは解決困難な課題があることも事実です。例えば、産業分野における天然ガスシフトにより確実かつ大規模なCO2削減が見込める一方で、お客さまには転換費、ランニング費の上昇が見込まれますので、転換を後押しするような政策支援が期待されます。

 メタネーションの実現に向け、設備の大型化やパイロットプラント実証などを進めなければなりません。25年の大阪・関西万博では、大阪ガスがメタネーションの実証提案を行う予定で、より高効率な技術の研究開発も進めます。

 水素やCO2の大量かつ安価な調達や、制度面のCNメタンの環境価値確立など、業界の枠を超えて他業界と連携した取り組みも不可欠です。例えば、サプライチェーンの構築における適地の検討や再エネ調達では商社、合成プラントの構築ではエンジニアリング会社、輸送では船舶会社、利用では大規模ユーザーなどとそれぞれの強みを生かせるよう連携して対応していきます。これらの業界はメタネーション推進官民協議会に参画しており、協議会を通じて官民一体となって検討します。

カーボンニュートラルに向けたシナリオ

ガス事業の枠を超え 地域活性化の取り組み支援

―脱炭素など地域の課題解決に向けたガス事業者の役割は。

本荘 事業環境が変化する中、ガス事業者の在り方も大きく変わると考えられます。大手ガス事業者は、海外も含めた総合エネルギー事業者を目指す一方、地域に根差したガス事業者は、地方自治体とも連携し各社・地域の特性に合った形で発展することになります。

 地方では、人口減少や地域経済の停滞、地域脱炭素化の要請という課題があります。再エネなど地域資源を生かし、地域活性化につなげる「地域脱炭素ロードマップ」なども国から示されています。地域に密着してエネルギー事業を運営するガス事業者が果たす役割は大きく、自治体などからも、地域での信頼を踏まえた課題解決の担い手として期待されています。

―そうした取り組みは既に始まっているのでしょうか。

本荘 小田原市、鳥取市、静岡県島田市などで、都市ガス事業者が中核となり、地域エネルギー供給の会社を設立するなど再エネ調達と地域への供給を行っています。これらは地域の循環型社会を形成していく観点からも重要な取り組みです。また、地域課題への取り組み事例として、日高都市ガスの「空き家管理サービス」や、越後天然ガスの「こども食堂」などがあります。地域の活性化は地域の魅力を高めます。一見ガスに直接関係ない取り組みであっても、地域の発展こそがガス事業者の持続的な成長につながります。

―協会としての支援策は。

本荘 協会の地方部を中心に、会員事業者の課題を吸い上げ、解決策を検討しています。具体的には、「地域活性化フォーラム」を開催し、地域活性化に資する講演や事業者の取り組み事例や課題を紹介しています。さらに今年度、地域が抱える課題発掘から「地域課題解決型ビジネス」の創出を後押しする取り組みを始めました。新たな事業を創出し、取り組み事例を業界内で共有することで、脱炭素や地域活性化に向けたヒントを提供できればと考えています。ガス事業者は各地域で、高齢者の活用、後継者不足への対応、飲食店の維持・発展などの取り組みを検討していると聞きます。事業者が地域資源を活用したプラットフォーム的な役割を担えるよう、引き続き多方面からの支援に注力します。

ほんじょう・たけひろ 1978年京都大学経済学部卒、大阪ガス入社。2009年取締役常務執行役員、13年副社長執行役員を経て15年社長。21年1月から同社会長、4月から日本ガス協会会長。