【特集2】メタン合成の高効率化を実現 施設整備で研究体制を拡充

2021年11月3日

【大阪ガス】

政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル社会」実現の鍵を握る「メタネーション」は、水を電気分解して水素を取り出し、二酸化炭素(CO2)と反応させることで都市ガスの原料となるメタンを生成する技術だ。

CO2と再生可能エネルギー由来の水素から都市ガスを生成するため、ガスの燃焼時に発生するCO2と相殺し、排出量を「実質ゼロ」にできる技術として期待が高まっている。

特に導管やLNG船、製造所などの既存インフラや需要家のガス設備をそのまま活用できることもあって、同技術の実用化は、高い経済合理性をもって脱炭素社会の実現に貢献するために必達の課題だと言える。

製造プラントの大型化やコスト低減など、さまざまな企業が実用化に向けた研究を進める中、大阪ガスは、これまで研究されてきた技術よりもさらに高効率でメタンを合成することができる、革新的なメタネーションを実現する重要なキーとなる「新型SOEC」と呼ばれる技術の開発に乗り出している。

実用化の課題解決へ 新型セルの試作に成功

これまで主に進められてきたメタネーション技術は、まず再エネで水を電気分解し水素を生成し、その水素をCO2と反応させ(サバティエ反応)メタンを生成するものだ。

これに対し「SOEC」では、再エネ電気で水蒸気をCO2とともに電気分解することで水素とCOを生成し、さらに「メタン化反応装置」で触媒反応によってメタンを合成する。

水電解・サバティエ反応技術では、水電解装置とサバティエ反応装置の2段階で熱損失が発生するため、エネルギー変換効率は55~60%にとどまってしまうが、SOEC技術の場合、排熱を有効利用することで85~90%という高い効率でメタンを生成できる。また、「水電解よりも、効率よく水素を生成できる可能性があり、その意味でも大きく期待されている基礎研究分野」(広報部)だという。

水電解・サバティエ反応技術、SOEC技術のどちらにしても、メタネーション技術の実用化には、低コスト化とスケールアップの実現という大きな課題が立ちふさがる。同社は今年1月、この二つを解決する足掛かりとなる新型SOECの実用サイズセルの試作に国内で初めて成功したと発表した。

これまでのSOECは、高価な特殊セラミックス材料で構成されていたが、新型のSOECは、ホーロー食器のように丈夫な金属を基板とし、表面を薄いセラミックス層で覆うことで、特殊セラミックス材料の使用量を1割程度まで削減できるようになった。

これにより、低コスト化はもちろん、①耐衝撃性が高く強靭、②形状の自由度が高い、③多数の素子を接続しやすくスケールアップが容易――といった優位性を得ることができる。

さらに新型SOEC技術の用途は、メタン製造による都市ガスのカーボンニュートラル化のみにとどまらない。水素やガソリンなどの液体燃料、アンモニア、化学品原料などの高効率製造にも活用できると考えられ、その潜在力には計り知れないものがある。

大阪ガスは、同技術の研究を加速化することで「2030年頃までに技術を確立し、50年の実用化を目指したい」(広報部)考えだ。

産官学の連携強化 脱炭素技術の開発加速

とはいえ、現在はまだまだ基礎研究の段階に過ぎず、実用化への道のりは遠い。研究開発を加速させるには、他の研究機関や企業などとの積極的な連携がますます重要になる。

そこで10月、大阪市内の「エネルギー技術研究所」を含む酉島地区に、カーボンニュートラルな燃料の製造や利用、蓄電池などの研究開発を行う「カーボンニュートラルリサーチハブ(CNRH)」を開設した。

カーボンニュートラルなエネルギーを「つくる」、うまく「つかう」、そして足元の徹底したCO2削減を実現するための同社グループの研究開発機能をここに集約。今後は、さまざまな脱炭素技術の実験設備を拡充していく計画で、低・脱炭素化に向けたグループ内での技術連携に加え、企業や、官公庁、大学・研究機関など産学官のさまざまなパートナーとの共同研究体制の強化を図る。

まずは来年1月に、燃料電池や太陽光発電設備、蓄電池、電気自動車などを導入した実験住宅「スマートエネルギーホーム」を導入する。さらに3月には、SOECメタネーション専用のラボを整備する予定だ。

同社は、50年脱炭素社会実現に向けた「カーボンニュートラルビジョン」を今年1月に発表した。その実現に向けては、さまざまな関連技術のイノベーションが欠かせない。同社は、業界横断的な連携で脱炭素社会に貢献する技術・サービスの開発取り組み、気候変動をはじめとする社会課題の解決を目指す。

SOECメタネーションのイメージ