国内外と連携し「気候モデル」研究 地球温暖化問題解決の一助に

2021年12月13日

【電力中央研究所】

 2021年のノーベル物理学賞を真鍋淑郎氏とクラウス・ハッセルマン氏らが受賞し、両氏の研究テーマの「気候モデル」が注目を浴びた。気候モデル研究は、電力中央研究所でも国内外の研究機関と連携して進められていた。

気候モデルとは何か。電中研サステナブルシステム研究本部の野原大輔上席研究員は「温度、風、大気などの動きを物理式化した天気予報で使われる数値気象モデルに、大気中のCO2濃度が高くなることで地球が温暖化する仕組みを取り入れて、気候変動の過程を計算して予測できるようにした数値モデルのことである」と説明する。

真鍋氏の気候モデルは、温暖化に伴い海洋がエネルギーを蓄積する仕組みも取り入れた「大気・海洋結合モデル」に発展。ハッセルマン氏による温暖化の原因特定の考え方も踏まえて、各国の研究機関で気候モデルの研究・分析が行われるようになることで、地球温暖化問題への世界的な理解が深まっていった。

大気・海洋結合モデルの発展形となる地球システムモデルの概念
枠と矢印は要素モデルと要素モデル間の物理量の交換を表す。実線は大気・海洋結合モデルの要素で、点線は地球システムを構成する炭素循環の要素を示す。
出典:電中研レビューNo.56、コラム1、2015年

論文をIPCCも引用 温暖化対策研究が芽吹く

研究を始めた経緯について、同本部の筒井純一研究参事は「化石燃料を利用するエネルギー業界として、地球温暖化問題は避けて通れない。安定供給や電源構成、インフラの維持管理にも影響を及ぼす」と話す。電中研では90年代から気候モデル研究に着手した。

さまざまな研究を経たのち、15年には野原氏、筒井氏らが論文を発表。共同研究を行う海洋研究開発機構(JAMSTEC)と、気候モデル研究で提携していた米・国立大気研究センター(NCAR)が構築した2種類の気候モデル(上図)を用いて、当時はまだ世の中に浸透していなかったネットゼロシナリオに注目して気候シミュレーションを行い、内容を比較・検討した。論文では各気候モデルの温度上昇幅に違いがあるものの、CO2ネットゼロ達成後には大幅な気温上昇は起きないという結果が示された。論文はIPCC第六次報告書にも引用されるなど、世界的な地球温暖化対策の科学基盤の構築に寄与している。

現在、電中研ではこれまで積み上げてきた研究成果をベースに、再生可能エネルギーの出力予測、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿ったシナリオ分析など、気候変動問題に対処する応用研究に取り組んでいる。持続可能な地球環境の維持と電力の安定供給の両立に向けて、今後も研究開発を続ける構えだ。