【論考/1月21日】EV界で消えゆく「チャデモ」イノベーションで出遅れる日本

2022年1月21日

欧米から日本の急速充電規格「チャデモ」が急速に姿を消している。EVの走行距離の長距離化、バッテリー搭載量増加に対する高出力化に遅れたことが主な理由。欧州規格のコンボ(CCS)が次々と高出力化する中で、技術的に劣勢に立たされていた。EV本格普及を前に、日本側に残されている時間は少ない。

 2021年12月にトヨタ自動車が16車種の電気自動車(BEV)を一挙にお披露目した。また30年までに30車種のBEVで、年間350万台の販売を目指すとした。発表会では5車種が並んでいたが、幕が開くと後ろに11車種が控えているという演出付きであった。しかし「仮名手本忠臣蔵」のセリフのごとく「遅かりし由良助」とCHAdeMO(チャデモ)の関係者は思ったに違いない。

 最初の量販型EVである三菱i-MiEVが発売されたのが09年7月、そして急速充電規格のフォーラムであるチャデモ協議会が設立されたのが10年3月であった。そして日産リーフが発売されたのが10年12月であり、ここからチャデモ(日本の急速充電規格)が動き出した。しかし12年に欧州規格のCCS(Combined Charging System、通称コンボ)が発表され、公正取引委員会の区別を使えば、チャデモ協議会は、他の企業連合との規格間競争を想定していないフォーラムから、競争を前提とするコンソーシアムになった。

さらにEU議会は「代替エネルギーインフラ整備促進法案」を14年4月に可決し、公共施設の急速充電規格としてCCSの設置を明記した。チャデモの設置は、当初案では19年1月1日までの移行期間までとされたが、当時のBEVといえばリーフであり、結果的にコンボの設置はチャデモとのマルチポート形式が前提となった。

競争で優位に立ったのは

 ここから規格間競争の焦点は、どの規格が市場競争で優位に立つのかというディファクト・スタンダード(De Facto Standard)を争う競争になった。法律によって定められた規格(デジュール・スタンダード:De Jure Standard)が、市場競争にさらされるというのは不思議な気もするが、雌雄はここから数年のEV開発競争にゆだねられた。

 結果は明らかだった。チャデモ協議会が「世界規模の国際規格」とうたっても、チャデモを採用したEVは実質的にリーフのみであった。次々とさまざまなEVが発売され、21年には顧客が選べるEVは50種を超えた。この状況で10年前に発売された一つの車種が、国際規格を背負うのはあまりに荷が重かった。19年のEVの世界年間販売台数は312万台であったが、リーフは5.5万台、1.8%に過ぎなかった。しかもモデルとしては既にピークを過ぎていた。

チャデモを採用したEVは実質的にリーフのみだった。

 21年9月のEV急速充電器の規格別シェアは、欧州全体ではCCS Type2が47%、チャデモが30%、Teslaのスーパーチャージャーが22%であった。最大の市場であるドイツでは、CCS Type2が62%、チャデモが25%とCCSの半数以下に留まった。アメリカでもチャデモは24.2%とTeslaの55.3%、CCS Type1の31.6%の後塵を拝した1。フランスでは、充電ステーションにはチャデモの設置が義務づけられてきたが、21年4月に設置義務が削除された(「電波新聞」21年5月24日)。

 アメリカの充電設備ネットワークの大手Electrifyもチャデモの利用率がわずか5%であること理由に、22年1月からはチャデモを新たに設置しないとした。新たに設置しないとは、順次姿を消すことを意味する。この中で日産は、新型EVアリアの海外向けはチャデモではなく、CCSを採用した。ホンダは既に海外ではCCSを採用している。

 チャデモの普及の制約要因として、コネクタが二つあることからデザイン的に制約があるとか、欧米人にはこの名称は発音しにくいなどとされてきたが、最大の問題は技術にあった。EVの走行距離の長距離化、バッテリー搭載量増加に対する高出力化に遅れ、CCSが次々と高出力化する中で技術的に劣勢に立たされてきた。しかも高出力化などの技術開発も足踏みが続いた。今後チャデモは中国と共同開発するChaojiに置き換わっていくであろうが、これにはまだまだ時間が掛かる。

 コンセントは世界には大まかな区分でも6~8種類もある。統一できれば便利だが、コンセントは各国が独自に進めてきたのだから、ことさら気にすることはないという声もある。

 必要なのは自ら進める覚悟

 しかしイノベーションに対するマインドは、全く別だ。ここで終わらない。

 テスラ社のイーロン・マスク氏は、急速充電器が不足しているなら自ら設置しようとスーパーチャージャーのネットワークを自ら作り始めた。マスク氏には「鶏が先か卵が先か」など自動車産業の領域的な発想はない、必要なら作る。パワートレインの転換期に必要なものは、結局、自ら進める覚悟があるかどうかだ。

 HVがもたらすイノベーションのジレンマか、チャデモのガラパゴス化か、それとも規制と既得権益に縛られてバハマ化(キューバのバハマがレトロなアメ車の博物館になっている状況)するか。

 チャデモはもともとCHArge de Move、「動きにチャージ」という意味だが、同時に「(充電時間に)茶でも」という意味も込めたと聞く。もうそんな時間は残されていないようだ。

注1.欧州の数字は、ChargeMapの統計を使用して欧州上位18か国の急速充電のコネクタ数から算出。米国は、米国DOEのAlternative Fuels Data Centerから算出したもの。

小嶌正稔 桃山学院大学 経営学部教授

1982年中央大学商学部卒、共同石油(当時)入社。93年青森公立大学助教授、2001年東洋大学経営学部教授、19年から現職。専門は中小企業経営論、石油流通など。