【特集2】室内からアウトドア向けまで ガスを使った嗜好品の数々

2022年2月3日

キッチンライフの充実化やアウトドアへのニーズなど家庭用機器への期待はさまざまだ。そんな多様な嗜好に応えようと、各社は技術や発想に磨きをかけている。東邦ガス、リンナイ、岩谷産業の取り組みを追った

新発想で挑んだ商品開発 クラウドファンディング利用の成果

東邦ガス

東邦ガスはクラウドファンディングを利用して商品開発を行った。多機能減圧鍋「グルミール」で行った取り組みは注目されそうだ。

東邦ガスは新たなニーズに応えられる商材を提供するべく、ユニークな仕組みのテストマーケティングを活用した商品を開発した。その仕組みとは「クラウドファンディング(CF)」だ。正式に商品化する前に試行販売(1個当たり1万円程度)という形で応援購入者を募り、目標金額に到達したらニーズがあると判断し商品化する。応援購入者には開発した商品を還元する。こんなフローによって商品化されたのが、多機能減圧鍋「グルミール」だ。エネルギー業界で、こうした仕組みで商品化をした例は初めてと言っていい。

ニーズに合った商品化 売れないリスクを低減

これまで東邦ガスではガス機器や床暖房などのガス関連設備の開発をした経験はあるが、鍋のような家庭用商品を開発したことはない。そんな初商品を、なぜCFで商品化するのか。技術研究所家庭用技術総括の佐宗洋子次長は次のように説明する。

「テストマーケティングの意味合いが強いです。試作品や商品コンセプトをCFサイトに掲載して、応援購入者がどの程度集まるかによって、われわれが考えたコンセプトに本当にニーズがあるかを測ることができます。同時に商品化したけれど売れないというリスクを低減します。加えて、お客さまのご質問やご要望を商品化の際に反映しブラッシュアップできます」。そんな経緯で生まれたのが今回の多機能減圧鍋だ。

製品開発には、「ガスコンロを楽しく使ってもらう」ということをコンセプトに据え、鍋メーカーの北陸アルミニウムと共同で取り組んだ。

最大の特長は、鍋内部の圧力を下げることで鍋を加熱し続けなくても沸騰状態を維持することが可能な「減圧鍋」であること。煮物料理などをつくるときに具材の煮崩れが少ない、味が染み込やすい、加熱時間が短縮できる―といったメリットがある。また無水調理にも対応する。

炊飯においては、メーカー各社から自動炊飯機能を搭載したガスコンロが販売されているものの、専用炊飯鍋は自社製コンロにしか対応しておらず、汎用性に課題を抱えていた。そこで、東邦ガスはコンロメーカーの協力を得ながら、各コンロの火力の強弱や燃焼具合を確認。各種チューンアップして、あらゆるコンロの自動炊飯機能に対応した。

このほか、重量は1.5㎏と、調理の時短に定評がある圧力鍋や、鉄鋳物でできた無水鍋に比べて軽量。吹きこぼれが起きにくい形状にしたり、鍋内部の目盛りが目立たないようにしたりするなど、機能性と意匠性を両立できるよう鍋メーカーやデザイン会社と研究し、そのまま食卓に置いても違和感のない商品に仕上げた。

目標金額を1時間半で達成 第三弾の商品開発も計画

CFを利用した商品化に対して、社内からは「面白い」との反応が多く、トントン拍子で企画が進んでいったという。一方で、「本当に売れるのか」(佐宗次長)との不安がよぎったものの、ふたを開けてみれば、商品化が成立する目標金額の100万円は支援の募集を開始してからわずか1時間半で達成。最終的には1000万円を超す応援購入を集めた(募集は終了)。今回利用したCFサイト「Makuake」内でもかなりヒットした商品だといい、ホームページ内でも大きく扱われていた。

グルミールは、今年6月下旬から東邦ガスの公式ウェブショップや販売店「エネドゥ」店頭で販売する予定という。

さらに、東邦ガスでは、第二弾として、太陽熱を蓄えて繰り返し使えるエコな防寒マットの試行販売を行い、こちらも目標金額を達成した。

佐宗次長は、「CFで新しい商品の開発に挑戦できることが今回の取り組みでよく分かりました。開発を進めることでデザイン会社や鍋メーカーなど、これまで付き合いの少なかった人たちと協力することができ会社としての視野も広がります。挑戦を続けることで、生活を豊かにしたいですね」と、第三弾の商品開発も計画しているという。 暮らしを便利にする商品開発の新しい方法として、CFを採用した東邦ガスの取り組みは、業界から注目されそうだ。

第2弾となった防寒マットは太陽熱利用のエコな商材だ

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