【目安箱/1月27日】歴史を揺るがした火山爆発 トンガ噴火とエネルギー問題

2022年1月27日

南太平洋のトンガで1月14日に巨大海底火山が噴火した。同国は2015年段階で、再生可能エネルギーを20年までに発電の半分にするという目標を掲げていた。太陽光、風車による発電は当面火山灰で不可能だろうし、交通が途絶し津波に襲われた以上、潮力や火力発電の稼働も難しそうだ。この災害によるエネルギー、電力不足も懸念される。トンガ国民、被災者の方の安全を祈りたい。日本と世界で、この噴火による気候への悪影響、さらには穀物価格の上昇への懸念する声が広がっている。影響は現時点ではわからないが、火山の爆発は、歴史を動かすほどの変化を何度も与えている。それを振り返り、未来を考えたい。

◆並外れて巨大な規模の噴火

報道によると、噴火したトンガの海底火山「フンガトンガ・フンガハーパイ」を、トンガ政府地質担当局は今年「休火山」と発表していた。ところが噴火をしてしまった。火山予測の難しさがわかる。

世界の地質学者は、共通指標の火山爆発指数(9段階)で火山の爆発規模を認定しているが、この爆発規模は6相当(並外れて巨大)に相当するという意見が出ている。指数6には1991年に1年間続いたピナツボ火山(フィリピン)などがある。86年に全島民が避難した伊豆大島の大噴火が3相当だから、このトンガでの噴火は相当大きい。

91年のピナツボ山の噴火は約1年間にわたった。火山ガスや粒子が大気中に放出され太陽光を遮ったことで、93年にかけて北半球の平均気温が0.5度程度下がったとされる。日本でも93年は冷夏に見舞われ、全国平均のコメ作況指数は74(平年値100)で「著しい不良」となった。それによる米の不足「平成の米騒動」を思い出し、今回の噴火の影響を心配する声も多いようだ。

◆火山が社会を壊す

火山が社会に大きな影響を与えた例として、1780年代の西洋、東洋での連続的な火山の爆発が知られる。83年に日本の浅間山が噴火。関東一円に火山灰が降り注ぎ、その後に天候不順が続いた。同年には東北の岩木山も噴火。これらの噴火の後に日照が減り、不作が続いた。82年から86年まで天明の大飢饉が発生し、この飢饉では東日本を中心に数十万人規模の餓死者が出た。

83年から85年にアイスランドでラキ火山、グリムスヴォトン火山が噴火。その影響で天候不順がヨーロッパで続く。火山性の有毒ガスは、アイルランド、イングランドまで一時届いた。イングランドでは83年夏に異常な猛暑と二酸化硫黄を含んだガスが健康被害をもたらした。83年から84年初頭の冬は厳冬、84年以降の90年前後まで冷夏が続き凶作となった。フランスでも天候不順による凶作が89年まで続いた。フランス革命の一因は、89年にパリを中心に発生した食糧暴動だった。いずれの場所でも、火山灰の影響で、曇りが続き、太陽光線が弱くなったことが観測されている。

日本は2011年の東日本大震災以降、地震活動、火山活動が活発になっていると、有識者は揃って指摘している。(京都大学2020年度退職教員最終講義・鎌田浩毅教授)トンガの大噴火の影響は数年続く可能性があるし、太平洋の火山活動と地震が連動するかもしれない。

◆影響は土地によってまちまち

ただし心配ばかりしても仕方がないし、予想外の未来が訪れる可能性がある。気候のメカニズムは複雑で、火山が爆発すると必ず冷夏が訪れるという単純なものではない。火山が爆発によってガスや火山灰を拡散させたとしても、その場所、風向き、大気の状況で影響は異なる。

上記図によればピナツボ火山の噴火の翌年の冬、気温の上昇したところ、下がったところが世界の各所で異なる。そして影響は一律ではなく、偏在する。

1991年の第一次湾岸戦争で、クウェートを侵略したイラク軍が、撤退に際して油井を破壊した。その際に、油の燃焼による気候への影響が懸念され、米国の物理学者が試算をし、気温低下を警告した。80年代、核戦争の際の破壊によるって生じたがれきなどにより、「核の冬」が起きることが懸念され、そこで使われた試算方法が応用された。しかし環境汚染はあったもの、気温の大幅な変化は起きなかった。予想より早く鎮火したために、気温への影響は限定的だった。

トンガでの火山噴火で、警戒した方がよい問題であることは確かだろうが、地球の気候への影響がどのようになるかは不明だ。

◆インフレ基調の中での影響を懸念

折しも、ウクライナと台湾では、軍事大国による恣意的な威嚇により武力紛争が懸念されている。ウクライナは欧州に小麦や飼料を提供する穀倉地帯だ。そして気候変動への関心が全世界的に高まり、化石燃料への投資が抑制され、エネルギー資源の価格は上昇傾向にある。世界的に、モノの供給の先行きに不安な要素がある。世界各国で、コロナ禍の不況から一転し、インフレ基調に転換しつつある。

そうした中で、今回の噴火は、またインフレをもたらす材料になりそうだ。気候への悪影響による世界的な不作、連鎖的な火山活動や地震が起これば、物流の停止なども起きかねない。エネルギー産業への影響を考えると、インフレ圧力が高まる中で、エネルギーの資源、電力やガスなどの価格は上昇しやすくなる。企業としてはサービスや提供する物の値上げをしやすくなる一方で、利益との均衡点を探ることは難しく、また消費者や政治からの不満も発生しそうだ。

2022年のエネルギーをめぐる状況は不透明さを持つ中で、天災という、また新しい不安定要素が加わったことは間違いがない。