【論考/2月17日】 タクソノミー で原子力とガス認定 条件や情報開示義務を規定

2022年2月17日

天然ガス発電施設については、既存の化石燃料施設を35年末までに再エネ施設に転換させる事業計画を持ち、新設備の建設は30年末までに承認を得ることが必要だとした。既設の転換については、最新の環境水準の天然ガス発電施設や、天然ガス高効率熱電併給施設、天然ガス高効率地域冷暖房システムによって温室効果ガスを55%以上削減させ、35年末までに100%再エネの低カーボン事業への転換を達成させることを求め、「過渡的な活動」の性格を明確にした。

ただし、ライフサイクルCO2排出量の上限値は1kW時当たり100g未満と原子力発電と同等であり、排出原単位は同270g未満(または20年間の年間平均排出量がCO2換算で設備容量1kW当り550kg以下)と厳格なスクリーニング基準が提示されている。

投資家が事業者を評価 次世代原子炉に資金誘導へ

諮問機関のコメントを受けて、ECは原子力と天然ガス事業について投資家の視点での透明性と比較可能性を確保するため、テンプレート書式を用いた方式で、「天然ガスまたは原子力事業の経済活動の有無」、「スクリーニング基準に従った天然ガスまたは原子力発電事業が全事業または投資ポートフォリオに占める割合」、および「当該事業が環境目的にどのように、どの程度貢献するか」を開示する義務を規定した。

これにより投資家には、発行会社または投資対象の金融商品について、天然ガスあるいは原子力事業の経済活動の有無、当該事業の環境目的に対する貢献度を評価して投資判断を行うことが期待されている。同時に、事業者にはタクソノミーの業務区分に従った開示が要請されることから、投資家は、発行会社や投資対象ポートフォリオの原子力発電施設や天然ガス熱電供給施設の先進性の程度を判別できることになる。

特に原子力発電については、タクソノミー適格要件と開示要件の提示により、第4世代原子炉の研究開発や第3プラス世代炉建設に民間投資資金を誘導し、高レベル放射性廃棄物の処理施設の運用開始を気候中立達成期限の50年に設定するという、EUのエネルギー政策の戦略性が高いロードマップが示された。欧州各国の多様な電力ニーズやエネルギーミックスに応じた供給体制の再構築、エネルギー安全保障の確保という現実を見据えながら、最先端の科学的知見に基づく革新的原子力技術の研究開発を後押しし、EU各国に主体的な放射性廃棄物処理を要請するという、建設的な産業政策が具体化されたといえる。本法案は各加盟国言語に翻訳され、欧州議会と理事会による精査のうえ、加盟国の72%(20加盟国)かつEU人口の65%以上を占める国の反対か、欧州議会議員の過半数(353人以上)の反対がない限り、23年1月1日に施行される予定である。

翻って日本では、福島原子力発電所事故以降滞っているエネルギー政策のロードマップを可視化し、大学研究室での原子力工学の基礎研究や、新型原子炉の開発、原発建設のノウハウ継承など、科学の進歩に取り組む日本人に熱量を与える仕掛けが期待される。

すみや・ひとし 1987年弁護士登録。以来、電力債・デジタル社債・REIT(不動産投資信託)・上場企業買収を含む国際資本市場業務のに従事する専門家。2018年5月から現職。

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