【目安箱/2月18日】エネルギー価格上昇、「自分の問題」になる怖さ

2022年2月18日

◆戦争経験者の思い出話

「家が空襲で燃えるまで、知人が死んだと知らされるまで、戦争は自分の問題ではなかった。海の向こうの他人事だった」。筆者の小さい頃、太平洋戦争を、いわゆる「銃後」という戦地以外で経験した人は揃って、こんなことを話していた。そして誰もが言っていた。「自分事と思ったら、もっと真剣に戦争に反対していた」

筆者は50歳代で、20世紀の日本の最大の出来事である長期の戦争の時代、1931年の満州事変から1945年の太平洋戦争の敗戦まで、戦争を大人として経験した人が、祖父母にいた世代だ。今の若い世代より、この戦争を詳しく聞いていた。

この戦争は、当たり前かもしれないが、多くの人にとって「他人事」であった。ラジオや新聞の伝える情報は、遠い存在だった。自分や身近の人が苦しみや恐怖を経験することによって、初めて「自分事」になったわけだ。

エネルギーでも、同じように「他人事」から「自分事」に変化する可能性がある。

◆肌感覚に加え統計でもインフレへ

日本の消費者物価指数は、統計上は落ち着いている。2021年12月の消費者物価統計では、生鮮食品を除くコア指数の上昇率が前年同月比0.4%増にとどまった。ただし、これには特殊な要因がある。数値を細かく見ると、コア指数に対する寄与度はエネルギーがプラス1.2ポイント、通信はマイナス1.6ポイントだ。通信では、菅義偉前首相の肝煎りによる価格引き下げ政策で、2021年3月から大手3社が一部の料金を引き下げ、それが影響している。

今年4月以降、この携帯料金引き下げによる影響が解消される。エネルギー価格の上昇が統計でも現れるはずだ。

日本では2月時点で、インフレの兆しが出ている。肌感覚で食品の値段が上昇し、エネルギー価格の上昇も目立つ。ガソリン価格の看板はレギュラーでリッター170円前後(東京地区)と昨年1月末に比べ4割の上昇となった。

また電力料金も上昇している。2011年の震災直後、「コーヒー一杯分の値段で再エネ振興」と当時の海江田万里経産大臣は言って、再エネへの付加金制度の導入を訴えた。導入当時は月100円前後だった。ところが今の再エネ付加金はどの家庭も月1000-1500円になり、それがさらに増え、電力料金に上乗せされる見込みだ。エネルギー価格は自由化されても、一般向け料金では調整価格帯が作られていたが、この価格上昇でその上限に迫り、まもなくその調整域が見直されそうだ。

SNSを見ると、欧米在住の日本人が、ガス、電力料金が昨年の倍近くになり、月数万円単位と悲鳴を書き込んでいる。英国、イタリア、ドイツ、米国東部など、多くはエネルギー自由化をした地域だ。それが日本でもやがて起こるだろう。フランスや北欧など原発を活用している国からは聞こえていない。

◆「真剣に」問題に向き合う人が増える期待

エネルギー価格の上昇は、かつ複合的な要因によるものだ。世界的なインフレ傾向、ウクライナでの緊張、石油とガスの生産国ロシアの不透明な先行き、そして温暖化で化石燃料開発への投資が停滞していることなどが重なった。いずれもすぐには解決できそうにない原因で、エネルギー価格の上昇は、長期化するだろう。

東京電力の福島第一原発事故の後で、エネルギーは突如、重要な社会的問題になった。けれども見ていると、一部の人には主張に「気楽さ」があったように思う。劇的にエネルギー価格は上昇せず、日本のエネルギー業界、特に電力の頑張りで、原発が動かなくても電力供給が続いた。そのためか「他人事」として問題を考え、国会から巷間まで、好き勝手なことが言われた。「原発ゼロ」というスローガンは、その典型的なものだ。

エネルギー価格の上昇が生活を苦しめる現実によって、多くの人は「自分事」として「もっと真剣に」エネルギーを考えるのかもしれない。かつての戦争経験者たちと同じように。それは、この悪い予感のする未来の見通しの中で、数少ない希望を抱ける動きだ。