【特集2】欧州から見た再エネ・水素事情 将来の安定供給に懸念強まる

2022年3月1日

【インタビュー: 髙木愛夫/火力原子力発電技術協会技術部長】

再エネや水素を進める欧州事情の中で、現地の事業者は何を思っているか。毎年、欧州発電事業者との技術会議に参加する火力原子力発電技術協会に話を聞いた。

―昨年、欧州大規模発電事業者技術協会(VGB)が主催する火力技術会議に参加されたようですね。

髙木 はい。VGBは大型火力を保有している欧州電力会社が主体の組織で、日本の重電メーカーなどの現地法人も加盟し、33カ国437法人が会員です。当会はパートナーという立場です。毎年、欧州各国の発電事業者の技術交流を目的に会議が開催されており、私は2017年から毎年参加しています。

―当時の様子はどうでしたか。

髙木 電力団体であるユーロエレクトリックの方が「これからは再生可能エネルギーの時代だ。研究開発についても再エネに全てを投資しよう。ゆくゆくは石炭火力を廃止していく」と講演していました。ところが、会場は「石炭火力をなくし、再エネだけで電力の安定供給を担えるわけがないだろ」と白けたムードでした。

―講演者は電気事業のプロですよね。

髙木 そうです。EUのエネルギー政策に携わっている方です。そういう方の講演だったのに、会場は「とんちんかんなことを言っている」という雰囲気でした。ところがその翌年、また同じ人が同じような内容の講演をしたのです。

―会場の反応はどうでしたか。

髙木 静かで、否定的な反応はありませんでした。火力発電事業者は再エネと共存していこう、という意識がすごく強くなったのかなと感じました。18年当時は、「火力の調整力」というキーワードがスポットを浴びていて、VGBは「フレキシビリティーツールボックス」という技術書を出版し、火力の調整力を高めるにはどういう技術が必要か、そんな議論を深めようとしていました。

ドイツに「右へ倣え」 再エネ資源を海外に求める

―石炭産業が主力のポーランドはどういうスタンスなのでしょうか。

髙木 私の感覚としてはポーランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、チェコなどはドイツに「右へ倣え」です。国家規模が小さい各国がユーロ圏で生き残るには、ドイツには逆らえないという感じです。例えばチェコはドイツ同様に38年に石炭を廃止するプランでしたが、ドイツの前倒しを受けて、チェコも踏襲します。

―フランスはいかがでしたか。

髙木 それが、面白いのです。EDFの人がいて話をすると、「各国いろいろな事情があるから、政策は各国に委ねるべきだ」と。「日本は石炭を廃止するか決めていない」と伝えると、「そういう姿勢のままでもいいのではないか」という感じでした。あくまでも個人の意見ですが。

―ドイツはいま再エネを中心とした政策を展開しています。

髙木 確かにそうですが、再エネリソースは限られています。英国やスペインに洋上風力を作りドイツへ持ってくる、あるいは、北アフリカの風力や太陽光の再エネ資源を活用する。当然輸入です。なので「自国で再エネは賄えない」とドイツ人自らはっきりそう言っています。最終的には再エネからグリーン水素を作って運ぶ。各国でそんな検討をしています。

―欧州の水素利用はどのようなものですか。

髙木 製造業、電力、輸送用燃料、ビルディング(冷暖房)、輸出用などですが、国によって異なります。英国は産業用途がメインですね。ロシアは自国の天然ガスパイプラインを使った輸出用として考えています。

石炭火力無き不安感 安定供給の責任は系統側

―日本のエネルギー政策はどのように受け止められていますか。

髙木 一部の有識者が集まるような会議と、私がこれまで参加してきた会議は趣が全く異なります。前者はEUの中枢部にいる人たちで、「石炭がなくても困らない。再エネを進めよう。グリーン水素を世界中から集めよう」という考え方です。

 一方、私が参加してきたのは、あくまでも電力会社の現場をよく知る人たちの会議で、ビジネスベースで話をします。そういう方にとって、日本は極東の島国という印象しか持っておらず、日本のエネルギー政策について興味を持っているのは一部の方だけです。

―会議に参加して得た教訓は。

髙木 日本は、欧州の取り組みを意識しすぎないほうがいいと思います。日本の電力ネットワークは海外とつながっていません。資源も海外に依存しています。こうした日本の当たり前の事情を踏まえて議論すべきだと思います。また、会議に参加していて印象的だったのは、電力の現場を知っている皆さんと個別に話していくと、セキュリティー・オブ・サプライというワードを必ず口にします。「本当にこの先の安定供給は大丈夫なのか」と懸念していました。

―発電事業者側が今後、どうしていくべきか模索しているのですか。

髙木 模索できないわけです。目先では再エネを増やし、将来はグリーン水素を世界中から集めますが、その水素にしても、安定供給を前提としている場合、50年の時点では足りないことは明白です。いま進めている計画はステディーではなく、リスキーということは、現場を知っている人間は理解していて、「そういうときにどうやって電気を供給し続けられるか」と懸念しているわけです。

―懸念で終わらせてはいけませんね。

髙木 長期的な安定供給に責任を負うのは火力発電事業者側ではなく、系統運用者(TSO)側になります。系統側が電源を確保しておかないといけないわけで、その仕組みの中で発電事業者が対応するわけです。「本当に石炭を廃止して大丈夫なのか」と懸念を抱きつつ、「代替の電源を確保しておく責任はわれわれではない」と。次の火原協との交流会議はセキュリティー・オブ・サプライが議題の一つになると思います。

―石炭は残すべきですか。

髙木 使えるものならば、有効に使うべきですし、アンモニア混焼なども進めるべきです。日本の石炭火力の性能は、諸外国に比べてはるかに優れています。長い歴史から見ると、欧州は酸性雨の対策を解決できませんでした。だから石炭火力が減ってきた。ところが日本の煤煙処理技術は優れていて、NOXやSOX問題を解決できたため石炭を残せた。

―現在の日本の自動車産業と構図が似ていますね。

髙木 FCVを開発できなかった欧州勢がEVシフトした。欧州の方の「トヨタはすごい。VWは駄目だ」と言っていたことが印象的でした。

たかぎ・よしお  1978年東京工業大学入学。84年に同大総合理工学研究科修士課程を修了し、日本鋼管入社。95年に東京電力に入社し、電力技術研究所で流通設備などの技術開発に携わる。16年から現職。