【特集2】輸送・産業分野のCN化支える 水素利活用の技術開発を推進

2022年3月18日

【東邦ガス】

自動車産業をはじめとするものづくりの企業が集積する東海エリア。東邦ガスは水素技術を磨きながら、輸送・産業分野でのCN化を支える。

これまでクリーンなエネルギーの都市ガス供給を通じて低炭素化に貢献してきた東邦ガス。2050年に向け「脱炭素化」の実現を目指すビジョンを打ち出しており、その中で水素利用について二つの柱を掲げている。一つは、同社知多緑浜工場を拠点とする水素サプライチェーンの構築だ。ここを拠点に天然ガス改質などで製造した水素を需要家へ供給したり、将来的には海外からの輸入水素の受入拠点化を目指すなど、中部地区の水素利用ニーズに応えていく構想だ。

また東邦ガスのほか、中部電力、岩谷産業、トヨタ自動車などを含めた17社が参画し、中部圏における水素の大規模利用の可能性を検討する「中部圏水素利用協議会」を通じて、中長期的な時間軸で水素社会の実現に取り組んでいく。

運輸・熱分野に水素利用 地産地消の環境価値

もう一つがモビリティや熱利用向け水素需要の創出だ。中部地区はモビリティ用途としての水素利用が進んでいることに加え、ものづくりを中心とした産業集積地であり、工場での環境意識は日に日に高まっている。そんなニーズに応えるため、水素利用拡大に向けた検証や技術開発を進めていく。そうした中、豊田市内で同社が運用する「豊田豊栄水素ステーション(ST)」の活用に新しい展開が見えてきた。ここは現地で都市ガスから水素を製造するオンサイト方式の水素STとして20年から運用を開始。燃料電池自動車(FCV)向けだけでなく、バスや小型トラック向けにも水素を充てんできる。

昨年から、ファミリーマートが実証で使用している配送トラックへの水素供給が始まった。しかも単なる水素ではなく、環境価値を付けて供給する。東邦ガス水素戦略のキーマンの一人である、技術研究所環境・新エネルギー技術の村松征直チーフはこう説明する。

「ここでは地産再エネを活用し、都市ガス由来のCО2フリー水素を供給しています。ST内で消費する電力では豊田市内の再エネ由来の環境価値を活用し、都市ガスでも中部圏内のJ-クレジットを使ってCO2をオフセットしています。地元の自治体に協力をいただき、社内の関係部署とも連携しながら築き上げたスキームです。ここで供給する水素は、愛知県独自の低炭素水素認証制度で認証を受けた環境価値のある水素です」。都市ガスと電気の両エネルギーに対し地元由来の環境価値を与えて、地産地消型のCO2フリー水素を供給する、興味深い取り組みだ。

地産地消の環境価値で運用する水素ステーション

また、「海」に目を向けても新しい動きがある。名古屋港を拠点とした水素利活用の拡大を検討していくため、東邦ガスや豊田通商など4社の取り組みがこのほど、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業に採択された。フォークリフトなどの産業用車両や荷役機械への水素供給など、事業化を見据えた輸送分野で水素の利活用拡大に向け検討する。

名古屋港は、環境先進港である米国ロサンゼルス港と協力する覚書を締結済み。こうした取り組みを通じて、ロサンゼルス港でのノウハウも活用できる。

低コストで水素対応 最適な都市ガスとの混焼率

村松さんと共に東邦ガスの水素戦略を進めるもう一人のキーマンが業務用技術総括の山脇宏さんだ。山脇さんはこれまで、都市ガスと水素の混焼や都市ガスバーナの水素燃焼対応の開発に携わった経歴があり、まさに水素の熱利用分野の拡大を技術面で支えるエンジニアだ。そんな山脇さんが、ターゲットにしたのは450kW級のガスエンジンコージェネだ。ユーザーから水素混焼に関するニーズを聞き、コストを掛けずに最適な燃焼を実現することを目指した。

「水素は燃焼速度が速く、混焼すると異常燃焼が発生する恐れがあります。最悪の場合、設備が故障します。そこで定格出力維持を前提に、投入する空気との比率やタイミングなどを調整して最適な混焼率を探りました。結果、定格発電出力で35%の混焼率まで高めることができました」(山脇さん)

低出力下での混焼事例はこれまでも存在したが、定格運転での事例は、国内で初めてだ。しかも大幅な改造コストを必要としないメリットが期待できる。今後は、水素とガスの混合・供給方法の確立や、大幅な改造なしで制御可能な水素混焼率も見極めながら実用化を目指していく。

排ガス再循環部の部品交換 負担少なく水素バーナ化へ

山脇さんが水素利用拡大の一環で開発を進めるもう一つの設備が、工業炉バーナだ。昨年、東邦ガスは「シングルエンド・ラジアントチューブバーナ」と呼ばれる水素専焼に対応するバーナを開発した。水素は燃焼速度が速くなることに加えて、火炎温度が高いという特徴がある。例えば都市ガスバーナの燃焼温度が1200℃の場合、水素の燃焼温度は1400℃になり、NOX排出量が増えてしまう。また、温度が高い分、バーナ部品が劣化しやすいことが課題だった。そんなバーナに対して、ある解決策を見つけ出した。

「水素専焼バーナを作るのではなく、都市ガスバーナの一部である排ガス再循環の部品を変えるという発想です。排ガス再循環量を最適化することで都市ガス燃焼と同じNOX排出量にできます。これは、再循環構造部だけを脱着交換できるような仕組みで、バーナ本体の改造と比べて、10分の1程度のコストで水素専焼が可能になります」(山脇さん)

ものづくりの現場ではコージェネや工業炉は主力設備。そこから生まれる環境ニーズに、技術で応える東邦ガスの取り組みは、今後の脱炭素化モデルの理想的な産業構造の縮図である。

排ガス再循環の部品交換だけで水素化に対応する