【特集2】低廉なグリーン水素供給へ 新燃焼プロセス実験設備を導入

2022年3月18日

【大阪ガス】

都市ガス業界にとって、カーボンニュートラル社会に向けたイノベーションは重要な経営課題。より安くグリーン水素を供給する革新的技術として期待されるのがケミカルルーピング燃焼技術だ。

大阪ガスが、カーボンニュートラル社会実現に貢献する技術として2020年11月、石炭フロンティア機構(JCOAL)と共に研究開発に着手した「ケミカルルーピング燃焼技術」。バイオマスや褐炭などの低品位石炭といった未利用資源を燃料に、酸化鉄が循環しながら三つの異なる化学反応で二酸化炭素(CO2)、水素、電気の3種類の有価物を生成する技術である。バイオマスを用いた場合、水電解よりも安くグリーン水素を提供できる可能性を秘める。

ケミカルルーピング燃焼プラントは、①酸化鉄と空気中の酸素が反応し、発電用の高温蒸気を生成するための熱が発生する「空気反応塔」、②酸化鉄中の酸素が燃料と反応しCO2を発生する「燃料反応塔」、③燃料との反応で一部の酸素を失った酸化鉄が水蒸気と反応し水素を発生する「水素生成塔」―で構成され、酸化鉄が①~③の反応・生成塔を循環することで連続的に各反応が進行する。

脱炭素に向けた革新的技術として期待されている

同社は昨年12月、このケミカルルーピング燃焼プラントのコールドモデル装置を、カーボンニュートラル技術の研究開発拠点「カーボンニュートラルリサーチハブ」(大阪市此花区の酉島地区)内に設置した。2023~24年度に計画しているベンチスケール実証試験に向け、その試験に用いる装置の設計に必要な、酸化鉄粒子の循環流動特性に関するデータを取得するためだ。

コールドモデル装置は高さ約10m。実際に化学反応させるベンチスケール実証試験装置は温度が900℃に達するため金属で製作することになるが、同装置は酸化鉄の動きを観察するために内部を目視できるよう透明なアクリル樹脂でできている。ベンチスケール実証試験装置の規模は、燃料投入量にして300kWであり、コールドモデル装置と同程度の高さとなる予定。300kWの燃料を投入した際、理論上は1時間に水素を35?、CO2を0・1t、電気を30 kW時製造できるという。これは、25年度以降に同社が商用機として導入しようとしている設備規模の10~100分の1のスケールに当たる。

昨年12月に設置した燃焼プラントのコールドモデル装置

未利用資源を有効活用 最適なプロセス探る

ケミカルルーピング燃焼技術の研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けた事業。燃料を空気で燃焼させると、排ガスに窒素やNOXが大量に混ざるが、酸化鉄中の酸素で燃焼させることで排ガスにそうした成分が混ざらず、追加設備を導入することなく高純度のCO2を回収することができる。

一方、燃料となるバイオマスや低品位石炭に含まれる灰やタールへの対策、水素生成に適した酸化鉄や反応条件の探索が実用化への大きな課題で、これらの課題を解決するための要素技術開発を行い、ベンチスケール装置で一連の反応を問題なく進行させられることを実証することが、同事業の目的だ。

ガス製造・発電・エンジニアリング事業部ガス製造・エンジニアリング部プロセス技術チームの植田健太郎副課長は、「当社グループとしては、同事業の成果をもとに、バイオマスを燃料に、グリーン水素、グリーン電力、バイオ由来CO2を製造する装置として商用化し、各製品の需要家のカーボンニュートラル化に貢献することを目指しています」と語る。

バイオマスを燃料に水素、電気、CO2を製造するケミカルルーピング燃焼は、世界でも初めての取り組みだ。

2つのビジネスモデルを視野 水素とCO2の地産地消も

ビジネスモデルとしては、工場に本技術によるプラントを導入し、同社がエネルギーサービスを行うことや、同社グループが集中型のプラントを建設して各種製品を市場に販売することなどを視野に入れている。工場などに導入すれば、製造設備をCO2フリーの電気で稼働できるだけではなく、産業用途での水素やCO2の地産地消も実現できるというわけだ。

カーボンニュートラルリサーチハブでは、①都市ガス原料の脱炭素化、②水素・アンモニアの利活用、③電源の脱炭素化―の三つの切り口で、「エネルギーを〝つくる〟技術」と「エネルギーをうまく〝つかう〟技術」の研究開発に取り組んでおり、ケミカルルーピング燃焼技術は、「水素・アンモニアの利活用における〝つくる〟技術」に位置付けられる。

再生可能エネルギー由来の水素とCO2から都市ガスの主成分であるメタンを合成する「メタネーション」や、VPP(仮想発電所)による再エネの有効活用といった、さまざまなカーボンニュートラル技術の研究・技術開発を加速させ、複数の選択肢を持ってカーボンニュートラル社会実現に貢献していく構えだ。