【目安箱/3月4日】ロシア軍が稼働中商業原発を制圧 食い違う両者の主張

2022年3月4日

ウクライナ南東部にある国内最大規模のサポリージャ原発が4日夜、同国に侵攻したロシア軍の攻撃を受け火災が発生した。ウクライナ当局はそれを公表し、直ちに攻撃をやめるよう訴えた。これに対し、ロシア国防省はウクライナ側の破壊工作員による挑発行為があったと主張している。両者によると、同原発はロシア軍が制圧したもよう。稼動中の商業原子炉への攻撃は歴史上初だ。

ウクライナのクレバ外相は4日、Twitterで南東部のエネルホダル市にある国内最大規模のザポリージャ原子力発電所について「ロシア軍があらゆる方向から攻撃している。すでに火災が起きている。もし爆発したらチェルノブイリの10倍の影響が及ぶ。ロシア側は直ちに攻撃をやめるべきだ」と訴えた。

4日にはエネルホダル市民が人間の鎖を作り、同原発近くのロシア軍が撤退したとA F P(フランス通信)が報じていた。日本時間4日12時時点で、まだウクライナのエネルゴアトム社と同国政府の管理下にあるとしている。

一方、ロシア国防省の報道官によると、同原発付近でウクライナ側の破壊工作グループがロシアの警備隊を攻撃したのが発端だという。原発の外にある訓練施設から小銃による激しい射撃を受けたため、ロシア部隊が応戦したところ、同グループは訓練施設を放棄し火をつけ逃走したというのだ。ウクライナ側の主張とは真っ向から食い違っているが、いずれにしても同原発はロシア側が掌握したもようだ。

600万kW原発への攻撃は不測の事態に発展するのか

『【目安箱/2月24日】原発だらけの国で初の戦争?もう一つの「ウクライナ危機」』で指摘したようにウクライナは電力の6割を原子力に依存。サポリージャ原発では、1980年台後半に作られた原子炉6基が運用。いずれも出力100万kw程度で、計600万kwある。

ただし原子炉の破壊はロシア軍も被害を受ける可能性があり、原子炉はなかなか壊せない。このロシア軍の行動は、威嚇による人心の動揺、また制圧によるエネルギー供給の停止を狙ったものと思われる。

国際原子力機関(IAEA)は同日日本時間正午、ウクライナ当局からこれまでのところザポリージャ原発で放射線量に変化はないと報告を受けているとウェブ上で明らかにしている。ロシア側も「原発は正常に稼働を続けている」との見解だ。IAEAのグロッシ事務局長は、「もし原子炉が攻撃されれば深刻な危険が及ぶ」とコメントを発表した。

ただし原子炉の破壊など、不測の事態の発生の可能性があるため、ロシア軍の行動に懸念が広がっている。過去にイスラエルが、イラク(1981年)、シリア(2007年)に核兵器開発に関連する原子炉を爆撃で破壊したが、稼動中の民間発電用原子炉への攻撃はおそらく史上初になる。