【論考/3月7日】戦時モードに入った国際エネ市場 「脱ロシア」問題を考える

2022年3月7日

ロシア軍侵攻以降、エネルギー市場のモードが一変した。3月7日のWTI原油先物価格は一時139ドル/Bblまで急騰し、過去最高値の147ドルに迫ってきた。また,欧州天然ガス価格は200ユーロ/MWh (66ドル/MMBtu)、LNGのJKMは60ドル/MMBtu、豪州ニューキャッスルの石炭は440ドル/Mt (3日現在)。ドイツの電力先物も足元は50円/kW時、日本の年度(2022年4月~23年3月)ベースで40円/kW時ほどの値段が付いている。エネルギー企業の関係者は、価格の上下に驚きながら、燃料や電力の確保に奔走されているのではないだろうか。

こうした有事には過去の経験や常識が通用しない。今、何が起こりつつあるのか、今後、世の中がどうなっていくのかについては、日々、必死に足元の対応をされると同時に、冷静に事実を俯瞰することも大切だ。

繰り返しになるが、世界は戦時モードに入ったことを明確に認識する必要がある。具体的には、世界は「ロシアの切り離しに入った」ということではないか。

もちろん、「天然ガスの3分の1をロシアに依存する欧州、石油の10%を依存する世界はロシアの供給を切れない」。現に「SWIFT(国際金融取引システム)からの切り離しも天然ガスなどエネルギー関係は除外じゃないか」という声もあるだろう。

それでも、ウクライナ市民への蛮行に対し武器、供与やSWIFTからの排除というレベルの経済制裁を行うのは、もはやロシアに対して宣戦布告したのも同然だ。こうなるとエネルギーの輸出停止という報復にも備える必要がある。戦場から近い欧州の危機感は半端ないものだ。

ドイツ「戦後終了」に転換へ 日本政府の認識・対応は?

今回はその欧州、特にロシア依存の高かったドイツの動きについて整理した。ドイツのショルツ首相はロシアの侵攻からわずか23日後の2月27日、下院で次のような安全保障に関する方針を表明している。

①今年1000億ユーロ(13兆円)の防衛予算を確保するとともに、今後、防衛費をGDPの2%以上とする(ちなみに21年の防衛費は470億ユーロ=約6兆円、GDPの1.53%とのこと)、②EU各国との新型戦闘機,戦車の開発,イスラエルから最新武装ドローンの購入、③ガス貯蔵能力を2BCM以上向上、④世界市場からのガスの購入、⑤石炭とガスの国家備蓄の構築、⑥Brunsbuettel とWilhelmshavenにLNG受入基地を建設――。

これに続き3月2日には、ハーベック経済・気候保護大臣がロシア依存度の低減に向け、次のように言及した。

①ロシア以外のLNGソース購入に15億ユーロ(1950億円)分の発注を行った、②最悪の事態に備え、石炭火力を延命・待機させ状況に応じ運転を行う(電力大手RWEはこれを受け、脱石炭計画による発電所の休止の延期、休止中の発電所の復帰など要請に応じ対応としている)――。

ハーベック氏はまた、年末で廃止予定の3基400万kWの原子力発電所の延命についても「なかなか難しいようだが所管の経済・気候保護省で検討中」と語った。

注目すべきは、次の3点である。

①ドイツが戦後初めて、国として「安全保障」を前面に出したこと。しかも今回の侵攻後,わずか3日にして国の根幹たる政策を変えている。日本同様、平和主義・軽武装で、安保は米国頼みだったドイツの「戦後の終了」とでもいうべき転換だ。

②その「安全保障」の柱にエネルギー政策が位置付けられていること。

③ショルツ氏(SPD:ロシアと平和友好・相互依存)、ハーベック氏(緑の党:脱石炭・脱原子力)が、少なくとも短期的には政治的立場を棄てて,なりふり構わず「脱ロシア」で安全保障を確保しにきていること。ハーベック氏の発言など、立憲民主党の泉健太さんを通り越して日本共産党の志位和夫さん、社会民主党の福島瑞穂さんが「原子力の再稼働を」と言っているようなものだ。

日本の政府およびエネルギーのバイヤーは,このレベル感を共有しているだろうか。少なくとも欧州各国は、死に物狂いで非ロシアのエネルギーを獲りにきている。ここを理解するのが第一歩かと思う。