【コラム/3月11日】ロシア侵攻で米国議会の潮目変る 「反グリーンディール」の猛攻開始

2022年3月11日

杉山 大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

米国内では、バイデン政権の自滅的なエネルギー政策がロシアのウクライナ侵攻を招いたとして、野党共和党の大物議員が激しくバイデン政権の失態を非難している。これには大物の民主党議員も加わっている。

バイデン政権はグリーンディール(日本で言う脱炭素)にばかり熱心で、石油・ガスの採掘を環境規制によって妨げ、石油・ガス企業に圧力をかけて事業や権益を放棄させてきた。結果としてOPEC(石油輸出国機構)とロシアが世界の石油・ガス市場を支配するようになり、石油・ガス価格の高止まりを招いてきた。これはプーチンが付け入る機会になった。

3人の大物議員の批判を紹介しよう。

元大統領候補のテッド・クルーズ上院議員は、バイデンの大失敗は2つあったとする。

一つはアフガニスタンからの無様な撤退であり、これが「アメリカ弱し」との印象を世界に与えたこと。もう一つは、ノルドストリーム2ガスパイプラインにトランプ政権が課していた経済制裁を解除してしまったことだ。これは、ウクライナを通らない形で、ドイツがますます多くのロシアのガスに依存したがっていることを意味した。

プーチンはこれを見て、経済制裁があるとしてもたかが知れていると読み、ウクライナに侵攻した。

もう1人の有力者、元大統領候補のマルコ・ルビオ上院議員も、同じくアフガニスタンとノルドストリーム2がバイデンの二大失敗だとした。その上で、欧米が自らの石油・ガス産業を痛めつけてきたせいで、ロシアへの依存を高めてしまい、ロシアに力を持たせてしまったことを糾弾している。

ルビオは、「最大の対ロシア制裁は、いますぐ愚かなグリーンディールを止めると宣言することだ」と述べている。

ロシアは巨大な産油国・産ガス国であり、経済も財政も石油・ガスの輸出に頼っている。石油・ガスの価格が高いことで、戦争をする経済的余裕が生まれた。グリーンディールを止めることで世界的にエネルギー価格が下がれば、ロシアにとって大きな経済的痛手になるはずだ。

のみならず、いま石油・ガスの価格が高いため、欧米はロシアへの経済制裁に二の足を踏んでいる。欧米が増産していれば、こんなことにはならないはずだった。

(参考:マルコ・ルビオ上院議員インタビュー動画)

石油・ガス増産求める声拡大 超党派で政権を突き上げ

共和党だけではなく、与党の民主党に属しながら造反して、バイデン政権のグリーンインフラ整備を目指した「ビルド・バック・ベター」法案を葬り去ったジョー・マンチン議員は、「ロシアからのあらゆる輸入を止め、国内の石油・ガスを大増産して自由世界に提供すべきだ」としている。

(参考:マンチン: ロシアからの全ての輸入を禁止することで世界に率先し、かつてなかったほどにエネルギーを増産すべきだ、ブライトバート3月1日)

もとより共和党はバイデンを批判しているから、民主党の造反者と共に、米国議会からは、石油・ガス増産を可能にする法案が次々に出てくると予想される。これには、これまで気候危機を煽りグリーンディールにこだわり続けたバイデン政権もかなりの程度従わざるを得ないのではないか。

すでに、議会の攻勢の第1弾があった。ロシア石油の禁輸は、国内のエネルギー価格上昇を招くだけだといって、バイデン政権は当初は反対していた。だが、超党派で突き上げられて、豹変し、結局はまるで自分たちの手柄の様に禁輸措置を発表した

米国のエネルギー政策が大幅に揺り戻されることは間違いなさそうだ。

米国のグリーンディールとドイツのエネルギーベンデは、戦争という最悪の結果をもたらした。日本もこれを機会に無謀な脱炭素政策を止め、安全保障と経済に軸足を置いて、エネルギー政策を根本から造り変えるべきだ。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「脱炭素は嘘だらけ」「15歳からの地球温暖化」など著書多数。