【論考/3月24日】財務数値から見る大手電力の信用力低下

2022年3月24日

燃料価格の高騰を受けて、大手電力会社の利益水準が悪化している。各社の第3四半期(2021年12月期)の決算発表の場において、旧一般電気事業者(旧一電)10社すべてが従来の今期(22年3月期)利益予想を引き下げ、うち6社が最終赤字に陥る予想とした。ただし、旧一電各社が赤字決算となること自体は、過去においても珍しいことではない。今回も、旧一電の過半数が赤字に転落する予想となったことを報じたメディアも、そのニュースを決して大きく扱ってはいない。損益が赤字であることが問題となるのは、企業の存続が危ぶまれる事態になり、その企業のステークホルダー(さまざまな立場の利害関係者)が自分に損失が及ぶのではないかと心配になる場合だけである。現時点で旧一電各社の存続を危ぶむステークホルダーはいない。

廣瀬和貞/アジアエネルギー研究所代表

企業の存続可能性を見る信用力分析

企業に対して事業に必要な資金を供給する投資家は、企業にとって特に重要なステークホルダーであるが、投資家には大きく分けて2種類がある。企業に自己資本(株式)を提供するのがエクイティ投資家(株主)であり、他人資本(銀行借入や債券といった債務)を貸すのがクレジット投資家(銀行や社債投資家)である。前者は企業が大きく成長することで株主価値が高まることを求め、後者は事業が安定していて確実に債務が返済されることを望む、といった違いはあるが、投資対象の企業が存続して事業を継続することを望むという基本的な部分では共通している。

企業の存続の安定性の程度は、信用力(クレジット)と呼ばれる。本稿では、銀行や社債権者といったクレジット投資家が行う信用力分析(クレジット・アナリシス)の観点から、有価証券報告書によって簡単に入手できる財務データを基に、旧一電各社のキャッシュ・フロー計算書を分析し、全般に旧一電各社の信用力がどのような方向に変化しつつあるのかを示してみたい。

キャッシュ・フロー分析の意義

企業が作成する財務諸表は「財務三表」と呼ばれることがあるように、損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュ・フロー(CF)計算書の三つに大別される。このうちPLは、収益や費用を計上するタイミングをいつにするか、どこまでを費用と認識するか等々、経営者の方針によって記載内容が左右される程度が大きい。BSにも、PLに計上された減損等の評価損益が反映され、またPLを通さない資産価値の評価の変動も計上されるため、経営方針の影響を受けるのはPLと同様である。これに対してCF計算書は、現金(キャッシュ)の入り払いの記録から作成されるため、経営者の恣意が入り込む余地が小さい。そのため、企業の実態がより正確に反映されると言える。

また、債務を返済することは企業の存続にとって不可欠であるが、それはPLが示す損益が黒字であることではなく、返済に回せるキャッシュが存在することによってなされる。仮に損益が赤字続きであっても、手元に債務を返済できるだけのキャッシュがあれば倒産はしない(反対に、「黒字倒産」という言い方があるように、たとえ損益が黒字であっても、手元にキャッシュがなく債務を返済できなければ企業は倒産する)。これらの理由から、銀行などの貸し手が行う信用力分析は、CFの分析が主眼となる。

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