【記者通信/5月10日】原子力世論を変える秘策 気鋭コンサルに学ぶ「議論法」

2022年5月10日

社会問題を巡る論争が世の中では騒がしい。しかし、こうした論争の大半は罵り合いや争いを生むだけだ。後で振り返ると問題を解決して、みんなが幸せになるという良い結末をなかなか生み出していない。日本におけるエネルギー問題は、政治的な激しい論争となった後で混乱している。2011年の東京電力の福島第1原子力発電所事故の後で、電力業界への批判や反原発運動が広がった。それを背景にしてエネルギー自由化の動きが拙速に決まり、全エネルギー業界と全国民が巻き込まれた。しかし、それは成功したと言えるのだろうか。今の日本では、電力供給の不安定化、原子力発電所の長期停止による電力会社の経営悪化、そしてエネルギー価格の上昇という問題が生じている。そして解決の見通しは見えない。

現状を変えるには、どうすればよいのか。

「論争は何も産まない。対話で相手の意見を受け止め、意見をすり合わせて、目指すゴールにたどり着こう」

当たり前だが、なかなか実現しない、このような活動を呼びかける経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造さんの著書『日本人のための議論と対話の教科書 「ベタ正義感」より「メタ正義感」で立ち向かえ』(ワニブックス)が話題になっている。

倉本さんは、京都大学経済学部を卒業した後、世界的なコンサルティング会社のマッキンゼーに勤め、日本のコンサル会社である船井総研でも働いた。肉体労働現場やホストクラブ、カルト宗教団体にまで潜入して働いた経験もある。現在、独立コンサルとして働きながら、アルファブロガーとしても活躍中だ。

「日本の混乱したエネルギー問題で、多くの人が納得する方向に変えるにはどうすればいいのでしょうか」。倉本さんに聞いてみた。

◆「やっつける」ことを目指しても、現実は動かない

ーー議論で対立相手をやっつけることではなく、問題を解決する発想を考えるようになった背景を教えてください。

プロフィールから分かるように、私は「外国製のキラキラした経営論」と「日本企業の現場」との、あまりに文化が違う2つの世界のギャップを乗り越える仕事をし、方法論を作ろうとアレコレと実地で苦労してきました。その環境では「どちらからだけの意見を押し切る」では良い成果が出ません。いかに両者の良い点を引き出せるかを考え、実行することが必要です。

具体的には、理想と現実を擦り合わせ、改革を少しずつ進める漸進的な統合策を丁寧に進めるのが有効ですし、それしか道はないのです。「お前のせいだ」なんて争い始めたら、その時点で大変なことになり、会社がつぶれてしまいますからね。問題が起きるはるか手前で、抵抗勢力になりそうな人と対話を重ね、その人たちが納得し「自分ごと」「われわれ感」を持ってもらい、水が高いところから低いところに流れるような自然な状況を整えて、改革を進めるのです。

そこでの対話で重要なのが、より高い次元から問題を見て、正しさを考えようという視点です。私はこれを分かりやすいように「メタ正義感」と名付けています。

あるお手伝いした企業では、丁寧な改革を10年間少しずつやって、気づいたら社員の年収が自然と平均で150万円アップしていました。その会社の経営者の方は敵を作らず、丁寧に味方を増やしていました。提案した私の方が学ばせていただいたのです。

ーーけれども、丁寧なやり方だと時間がかかります。日本はあらゆる面で、ぐずぐずと問題が決まらない面が多いように思えます。

逆に「日本は、あらゆる面でぐずぐずと過ごしていたから、できることがある」と前向きにとらえられると思います。過去20~30年のネオリベ型の市場原理主義的グローバリズムにどっぷり浸かっていた国は、確かに日本以上に経済成長できた例が多いですが、一握りのエリート層とそれ以外の分断が大変深刻になっており、「同じ目線で一緒に問題を解決するムード」を立ち上げることが難しくなってしまっています。

大きな視点で言えば、現場と理想論の対立が続き、人類社会全体が二分されていくという、とんでもない事が世界中で進行しているわけです。アメリカでのエリートの理想論に庶民が反感を抱くトランプ現象や、プーチンの個人の理想が肥大化・暴走してウクライナを侵略してしまったロシアの状況なども、そうした対立の一環として捉えられるかもしれません。

「派手に誰かを糾弾してみせるけれども、実際の地道な改善にはつながらないようなムーブメント」は、世界中を席巻しています。そういう派手な騒ぎ方でないと「連帯」を生み出せない焦りのようなものがあるように思います。

日本で私たちがグローバリズムと土着の文化の2つに橋をかける実地の方法を提示していくことは、大げさなようですが、人類全体の「第三次世界大戦すらありえる分断」を超えるための希望の旗印にもなると思います。幻想であるかもしれませんが、日本はまだ社会全体にギリギリのところで「みんないっしょ」感が残って、ほんの少し余力があります。それをベースに物事を動かして、経済の発展と問題の解決を目指せる実例を日本のあちこちで示せると思うのです。

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