【特集2】温泉とともに湧出するメタンガス 自社エリアで地産地消活用

2022年6月3日

【東海ガス】

TOKAIホールディングス傘下で都市ガス会社の東海ガスは静岡県焼津市に都市ガス製造拠点を新設する。地下1500mから湧出するメタンガスから都市ガスをつくり自社エリア向けに供給していく構えだ。

静岡県中部に位置する焼津市。国内有数の遠洋漁業の基地である焼津港はカツオやマグロの水揚げ金額が国内トップであるほか、周辺漁港で取れる近海のサバやアジ、桜えびやシラスなど新鮮な魚介類も人気がある。また、地下から湧き出る温泉は貴重な観光資源として地域振興に寄与している。現在、温泉は焼津市が8カ所のホテルや温浴施設に供給している。

この温泉とともに地下から湧出することで注目を集めているのがメタンガスだ。焼津市ではガス田が80年以上前から確認されており、1941年から本格的に開発が始まった。最盛期の57年には14の井戸から日量3116mの生産量があった。現在は東海ガスが所有する4本の井戸がある。このうち2本が休止中で、1本が稼働中。もう1本が今回新たに掘削した「焼津港1号井」だ。

「焼津港1号井」。高さ10m近くまで湧き上がる

「稼働中の井戸はメタンガスと温泉の供給量が減少傾向にあります。特に温泉は周辺施設への供給が滞る恐れがありました。そこで、焼津市との協議により新たな井戸として、焼津港1号井を掘削することになりました」。担当する竹村昌徳供給保安部長はこう話す。

リスクが付きまとう開発 事前調査で狙いを定める

井戸は掘り当てられないリスクが常に付きまとう。このため、コスト抑制を踏まえた事前調査からの判断がとても大切になる。

焼津港1号井の場合、①掘削する敷地を焼津市、隣接地を東海ガスが所有しており、用地買収をすることなく、掘削と温泉・都市ガス製造設備の建設に十分な広さを確保している、②稼働中の既設井戸が近傍にあり、温泉・ガス脈が眠っている可能性が高い、③同社都市ガスエリア内にあり、ガスを輸送するための導管敷設費を最小限に抑えることができる―といったメリットを備えていた。

焼津港1号井では、深さ1500mまで掘削した。「周辺が住宅地のため掘削速度を落とすなど、近隣へ最大限配慮して工事を進めなければなりませんでした」と竹村部長は苦労を明かす。そうして焼津港1号井を掘り当てた。

通常、温泉はポンプを使用してくみ上げるが、同井戸では、メタンガスと温泉がパイプを伝って同時に湧き上がってくる。メタンガスの比重が水よりも軽い上に、水に溶けやすい性質のため、温泉を運ぶ役割を果たしているのだ。

右の写真のように、くみ上げるパイプは高さ10m近くまで伸びており、湧き上がってきた温泉が天板にぶつかることで、温水は重力に従って下へ、比重の軽いガスは上へと分離される。一度の衝突では温水とガスを完全に分離できないため、落下先にハチの巣状の板を何層か設置し、衝突を繰り返す構造となっている。ガスは天井に設けられたパイプから冷却装置を通ってタンクへ、温水は一時的な貯水槽へ送られる。

温水とともに採取されたガスは50℃ほどで温度が高く、水分を多く含んだ状態であるため、タンクに貯蔵する前に冷却し、水分を取り除く必要がある。温水はいったん泥などの不純物を取り除いてから焼津市の貯水槽へ送り、そこからホテルや温浴施設へと供給する仕組みとなっている。

メタンガスタンク。この奥に都市ガス製造施設を建設する計画
温泉の貯蔵タンク。ホテルなどに供給する

高純度のメタンガス 都市ガス供給に貢献

メタンガスは、静岡大学の木村浩之教授の協力の下、掘削したガス成分の分析などを実施した。「湧出したガスに硫黄分が含まれていたら脱硫装置を付ける必要があり、その分コストが上乗せされます。今回のガスは約99%メタンガスと非常に純度が高いことが分かりました。都市ガス用途向けのカロリー調整が最小限で済むなど大きなメリットがあります」と竹村部長。

焼津港1号井の1日当たりの産ガス量は、一般家庭が1年間で使用する都市ガスの5世帯分に相当する。年間産ガス量では約1800世帯分になる計算だ。

「当社が扱うガス量全体から見たら微量ですが、今回都市ガスに活用することで低炭素化や地産地消につながります。当社としてもアピールしていきたい」と後藤芳彦供給保安事業部長は語る。

焼津港1号井の隣接地には、都市ガス製造施設「中港製造所」を現在建設中。都市ガスの供給開始は今年秋口ごろになる予定だ。

脱炭素やSDGsへの取り組みが世界的に加速する中、こうした地産地消できる分散型エネルギーの取り組みはさまざまな地域で大きなヒントになるだろう。

建設を担当した後藤事業部長(右)と竹村部長(左)