【コラム/6月22日】ウクライナ危機とエネルギー自立の動き

2022年6月22日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻により、EUが、エネルギーのロシア依存を解消すべく様々な対応策を打ち出す中で、主要加盟国は、独自のエネルギーセキュリティ政策を発表している。様々な報道をみると、英国、フランス、ドイツでは、つぎのような動きがみられる。

英国は、4月6日に、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(Department for Business, Energy and Industrial Strategy: BEIS) が発表した「英国エネルギーセキュリティ戦略」(“ British Energy Security Strategy”)で、短期的には国産の石油や天然ガスの増産を支援するものの、2030年までに電力供給の95%までを低炭素化し、原子力発電、風力・太陽光発電、クリーン水素などのクリーンエネルギー設備を拡大していく。

原子力発電については、2030年までに最大8基を稼働させ、小型モジュール炉(Small Modular Reactors: SMR)を含めて、2050年までに最大2,400万kWの発電容量を確保し、国内電力需要の最大25%までを賄う。開発を支援する新しい政府機関として、年内にも「大英原子力」(”Great British Nuclear”)を設立し、十分な予算措置を講じることで、新設プロジェクトの投資準備や建設期間中の支援を可能にする。

英国では、2014年から、自由化市場の下での低炭素電源促進のために、原子力発電にも差額決済取引型固定価格買取制度(Contract for Difference Feed- in Tariff: CfD FIT)を導入したが、プロジェクトから撤退する事業者も多く、新規原子力発電を支援する上で新たな政府機関がどれだけ有効に機能するか注目される。

フランスでは、マクロン大統領が、 2022年2月13日に、2050年カーボンニュートラルと原子力産業再生を目指して最大14基の原子炉を新設することを発表している(少なくとも6基の原子炉を新設し、さらに8基をオプションとする)。4年前の大統領就任時には、原子力発電への依存度を減らすために12基閉鎖するとしていたが、拡大に方針を転換した。最初の原子炉の稼働は2035年までの建設を目指す。また、既存の原子炉については、安全が確認された場合には、稼働延長する。小型モジュール炉( SMR)も複数基建設する。同時に、再生可能エネルギー発電や省エネも推進していく。

原子力発電の拡大についての懸念材料としては、まず電力会社EDFが巨額な負債を抱えていることが挙げられる。また、建設中のフラマンビル3号(163万kWの欧州加圧水型軽水炉)の燃料装荷が2023年第2四半期となり、2007年12月の建設着手から15年以上を経過する上、建設費も当初予算の4倍の127億ユーロになっていることから、将来的に、順調な建設が見込まれるか予断を許さない状況にある。

ドイツでは、ショルツ首相が、2022年2月22日、ロシアによるウクライナ東部地域の独立承認を受け、ロシアからの天然ガス輸送パイプライン、ノルドストリーム2のプロジェクト承認停止を明らかにした。また、2月27日に、連邦議会で、2カ所のLNG基地の建設と今年中に廃止する予定であった原子炉3基と石炭火力発電所の稼働延長を検討する考えを示した(LNG基地については、その後、4隻の浮体式貯蔵再ガス化設備の導入が計画されている。また、原子力炉については、 3月8日に稼働延長案は却下された)。

また、3月25日には、連邦政府は、オランダ経由でのLNG調達や浮体式貯蔵再ガス化設備の導入などで、2024年夏までにロシアへのガス依存率を10%にまで引き下げるとの見通しを発表している。さらに、連邦政府は4月6日に、再生可能エネルギー法、洋上風力エネルギー法、エネルギー経済法などの改正案を束ねた「イースターパッケージ」(“Osterpaket”)を採択し、今後、連邦議会で立法手続きに入る。改正再生可能エネルギー法では、2035年には電力供給のほぼ全てを再生可能エネルギーでまかなう目標を定めている。

ドイツにも課題もある。再生可能エネルギーに大きく依存することで、電力システムの安定性に対する懸念が高まること、再生可能エネルギー支援コストの増大により国民負担が増すこと、大規模ソーラー発電や風力発電に対しての住民のアクセプタンスが現在でも困難化しているのに、これらの発電設備を何倍にも拡大することは果たして実現可能かなどである。

英国、フランス、ドイツにおいてそれぞれ課題はあり、実現可能性に不確かなところもあるが、各国は、最大限自前でエネルギーを確保すること目指している。従来は、エネルギーセキュリティ確保には供給元や供給ルートの多様化が重要と考えられた。ウクライナ危機で、世界経済のブロック化が進む可能性が指摘されているが、エネルギー分野では、国や地域の独立性が高まっていくだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。