【記者通信/6月27日】「節電ポイント」に批判の嵐 参院選の行方を左右か

2022年6月27日

節電をした人にポイントを付与する政府の構想が批判一色だ。6月21日に岸田文雄首相が自ら発表したが、その後に全国的に記録的な高温となり、さらに休み明けの27日に政府は新設した「電力需給逼迫注意報」を発令したことによって、その構想が無意味と批判され続けている。参議院選挙が7月10日の投開票で優勢が伝えられる与党自民党だが、エネルギー問題でつまずくことになりかねない。

◆あまりに付け焼き刃の奇妙な政策

政府は21日、物価高への対応策を話し合う「物価・賃金・生活総合対策本部」の初会合を開いた。そこで本部長の岸田文雄首相自ら、節電をした家庭にポイントを付与する制度の導入を発表した。22日の参院選の公示直前に物価高への取り組みを示し、また電力の逼迫が懸念されており、その緩和の意図もあるだろう。

しかし制度の詳細や財源など、26日に至るまであいまいだ。節電によるポイントは、各電力会社が行なっている携帯電話アプリでの節電ポイントに対し、政府が支援を行うというものだが、どのように参加するのか、いつから始まり期限はどうなのか、節電でいくらもらえるのかなどの具体策は打ち出されていない。

同対策本部のやり取りで一世帯あたりが節電で獲得できるポイントは、金額換算で月数十円程度とわずかであるとの見通しが発表された。「無意味だ」「安すぎる」「節電効果はこれでは数ワットだ」と批判がS N Sなどで湧き上がった。その批判を受けたためか、24日に政府は、節電ポイント対策の参加者に一律2000円を与えると発表した。ところが今度は「ばら撒き」「ただのりの懸念」などの批判がSNSで噴出した。批判はいずれも正しく、この制度は迷走している。

おそらく制度のアイデアを作ったのは経産省で、それを採用したのは岸田首相であろう。しかし首相も役人も、これだけ批判を集めることを予想していなかったのだろうか。経産省の政策立案能力の低下が、最近指摘されるが、それを証明してしまった格好だ。

SNSでの節電ポイント制度をめぐるナマの国民の声を拾ってみよう。評価の声は見つからず、批判一色だ。

「政府は節電より電力確保を考えろ!と言いたい。アホとしか評価できない。このままでは日本の産業が壊滅しかねないと思う」、「この政府、ポイントやクーポン好きやな。それでまた中抜きを業者にされるんだろうな」、「国の政策の『節電』は命の危険をもたらしますね。2000円で死んだら、お笑いでしょう。難しいところですが、危ない時は、冷房などをギリギリまで使うことをお勧めします。国の電力・エネルギー政策失敗のために、私たちが死ぬことはない。停電になったら。。。どうしましょう。そっから先は知らん」、「誰が節電するか。この暑さでは冷房で命を守る方が大切だ。政府の失敗を押し付けるな」――。

◆選挙に勝つために争点化避けるのは本末転倒

国民の節電ポイント政策への不満は、正当性のあるものだ。この電力のひっ迫は、これまでのエネルギー政策の失敗がもたらしたと、賢明な日本国民の大半は理解している。過剰な原子力規制による原子力発電所の長期停止。再エネの強制買い取り制度による電力市場の混乱。電力自由化と不採算の火力発電の閉鎖。こうした政策が複合して、電力需給が逼迫している。民主党政権で生まれたその問題を、10年間自民党政権は問題を先送りし、専門家である経産省・資源エネルギー庁も是正に動かなかった。そして今年の夏に電力需給が逼迫することは、昨年末から予想されていた。

参議院選挙前に争点になりかねない原子力問題、また電力問題を、岸田首相と与党首脳部は先送りしたのだろう。ところが、まさに選挙のタイミングで電力需給逼迫が問題になった。そして、この節電ポイント政策が、政治の不作為と無責任を強調する結果になってしまった。

「7月の参議院選挙に勝てば、大きな国政選挙のない『黄金の3年間』。その時に、原子力政策をはじめとしたエネルギーの問題を解決しなければならない」と、自民党衆議院議員が選挙前にある会合で話していた。そういう意見が政府・与党内で広がっていが、民主政治の原則を踏まえれば、選挙で争点にするべきだ。国民の信を問うのが選挙なのだから、当たり前のこと。選挙に勝つために争点化を避けようとしているとすれば、まさに本末転倒である。

節電ポイント政策への「嘲笑」で岸田首相が問題の所在に気づき、本筋である電力政策の立て直し、原子力再稼働に動いてくれれば良いのだが。もしかしたら、この節電ポイントが参議院選挙の争点になってしまうかもしれない。