【特集2】電力不足打開の切り札に LNG火力が供給力確保に貢献

2022年7月3日

国内の電力需給環境は火力発電所の休止・撤退やウクライナ情勢などで厳しい状況が続いている。この状況を打開するため、発電事業者はLNG火力の新設や再稼働など供給力確保にまい進している。

今年3月22日に東日本を襲った電力の需給ひっ迫―。原因は16日に発生した福島県沖地震で東京・東北エリアの発電所が停止したこと、真冬並みの寒さによる需要増加、悪天候による太陽光発電の出力低下など、複数の要因が絡み合って起こった。

加えて、脱炭素化の促進によって再生可能エネルギーの導入が拡大し、火力発電所の稼働率が低下、採算性が悪化して休廃止に追い込まれる発電所が増加した。予備率が低下し、夏や冬のピーク時に需給ひっ迫が発生しやすい環境にあったと言われている。

こうした事態を受け、経済産業省は5月、電力・ガス基本政策小委員会などを通じて検証を行い、「2022年夏冬の電力需給は厳しい」との予想を示した。具体的には、今夏の予備率が東北、東京、中部エリアで3・1%、北陸、関西以西のエリアで3・8%と、安定供給に最低限必要な3%台で推移するというぎりぎりの状況だ(下図参照)。

2022年度猛暑・厳寒時の需要に対する予備率

今冬はさらに厳しく、東京エリアの厳気象「H1需要」(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)に対する予備率は23年1月がマイナス0・6%、2月がマイナス0・5%となる見込みで、供給力が約200万kW不足となる見通し。他の6エリアでも3%を下回るとのことだ。

供給力確保の施策打つ 国際競争に立ち向かう

危機的状況に対し、政府は6月、5年振りに「電力需給に関する検討会合」を開催。供給面では、主に次のような対策をまとめた。

①追加供給力の拡大を図るため、休止中の電源などの立ち上げに対価を支払うkW公募を実施し、需給が厳しくなる際に休止電源を稼働させ、供給力を確保する仕組みを構築。夏に向けて、一般送配電事業者が計120万kWを公募する。

②追加の燃料調達などに対価を支払うkW時公募により、予備的な燃料などを新たに確保する仕組みを構築する。夏に向けて一般送配電事業者が計10億kW時を公募する。

③電力広域的運営推進機関がkW、kW時モニタリングを実施し、供給力や余力率の変化を継続的に確認する。

④22年度冬の燃料調達リスクが顕在化し、電力需給に大きな影響が生じる恐れがある場合、電気事業法に基づく、発電事業者への供給命令を発出する。

国内の電力需給における課題が顕在化する一方で、ウクライナ情勢の影響が燃料調達に暗い影を落としている。欧州を中心とした各国がロシア産エネルギー資源への依存度低減を進めたため、LNGのスポット価格が高騰。ロシア以外の地域からエネルギーを調達するための資源獲得競争が激化している。日本でも燃料を安定的に確保できないリスクが高まっており、予断を許さない状況だ。

経産省が3月に開いた「戦略物資・エネルギーサプライチェーン対策本部」では、ロシア依存度の高い7品目を特定し、安定供給確保に向けた緊急対策を取りまとめた。日本のエネルギー関連品目におけるロシア依存度は、石油が3・6%、LNGが9%、一般炭が13%程度。

特にLNGは国内の備蓄能力に限界があるため、仮にロシア産の輸入が止まると、電力・ガスの安定供給に支障が生じる恐れがある。このため、政府は産ガス国への働きかけや、LNG需給状況の把握に努めるとともに、事業者間の燃料融通の枠組み、LNG調達への関与強化などを検討すると提起している。

LNG火力が新設・復旧 国を挙げて燃料確保へ

厳しい電力需給の中にあって、期待されているのが供給力の増加につながる取り組みだ。

福島県沖地震において、石油資源開発(JAPEX)の相馬LNG基地と福島ガス発電の福島天然ガス発電所は震度6強の地震に遭った。21年2月に発生した震度6の地震に続く被災で、その経験を生かした取り組みによって、早期復旧を果たしている。

JERAは6月、前述の①kW公募で長期計画停止中の姉崎火力発電所5号機(60万kW)と知多火力発電所5号機(70万kW)の供給力を応札し落札した。また、②kW時公募に対して8億kW時の供給電力量を応札し落札。これにより、運転を再開すると、東北、東京、中部の3エリアの需給は1ポイント以上改善する見通しだ。

再稼働する姉崎5号機

今冬に向けては、東北電力の上越火力発電所1号機が12月の営業運転開始に向けて試運転中だ。同設備は三菱重工業と共同開発した最先端の「強制空冷燃焼器システム採用次世代ガスタービン」を採用。タービン翼の冷却構造を最適化し、タービンの入り口温度を1650℃まで引き上げた。蒸気冷却燃焼器を使用した従来型のガスタービンと比べ、熱効率が2%向上した。

JERAの姉崎発電所新1〜3号機は今年8月から順次試運転を開始する計画。最新鋭の燃焼温度1650℃級強制空冷式M701JAC形ガスタービンを用いた天然ガスたき次世代ガスタービン・コンバインドサイクルで、熱効率を61%から63%へと引き上げている。

こうした大型火力の新設やリプレースが電力ひっ迫局面を打開する切り札になるのは間違いない。