【コラム/7月12日】まだまだ終わらない制度設計

2022年7月12日

加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

前回の寄稿から約半年が経ったが、当初のカーボンニュートラルブームに、ウクライナ情勢の悪化によるエネルギー安全保障の確保や電力需給ひっ迫への需給両面での対策の必要性が新たに加わり、さらに4月には新たな法施行、そして通常国会で多くの法案が審議・成立と、まさにカオスといった様相を呈している。

さて、今回はこうしたカオス状態の日本の電力を中心とした制度設計の状況について、前回からのアップデートをしていきたい。なにぶん、多くの制度・施策が並行して検討・実施されているので、ざっと振り返りたいと思う。

とにかく多い審議会と議論の範囲

毎月、国の審議会を追っているが、ここ数か月は情勢変化もあり、開催回数はさらに拍車がかかって増えている。私が毎月動向を追っている審議会について、今年の開催状況を数えてみたが、1月26件、2月34件、3月46件、4月43件、5月23件、6月35件と半年で約200件と、膨大であることがわかった。1日に数件の審議会が重なることも多々あり、人は密になるなと言いながら、会議のスケジュールは平気で密になるという、まさにコロナ時代ならではの珍現象も起きている。

分野についても、2050年カーボンニュートラル宣言以降は、脱炭素全体に係る議論や再エネ・地域に関する議題が多くみられたが、ここ最近は、足下の課題であるエネルギー安全保障や電力需給ひっ迫対策といった上流側の議論が多く取り上げられている。

ここまで多くなると論点がぼやけて見失いそうで、全体を網羅・把握して戦略立てできるのか心配になる。

大きな方向性としては、クリーンエネルギー戦略の中間整理でもあるように、エネルギーの安全保障と電力安定供給を前提に、炭素中立型社会実現に向けた政策を講じ、脱炭素と経済の好循環を巻き起こそうといったところだが、まだ目次が提示されたに過ぎず、そうした方向性に「魂」を込める作業は、この夏以降になるだろう。

今後のエネルギー関連制度の行方は?

毎度、出しているマップ(表1)を見ると、2022年度以降の主な制度関連のスケジュールも、カオス状態を継続することになりそうだ。このシートを作成するために、詳細にスプレッドで施策を落とし込んでいるが、膨大、かつ毎月のように進化していく。

昨年、今年については、電事法などの改正も目白押しなので、その都度、新たな施策がプロットされている。例えば、22年4月には、通称、「エネルギー供給強靭化法」が施行され、再エネ分野ではFIP制度、太陽光パネルの廃棄等積立制度、FIT認定失効が、新たな事業形態では配電事業、特定卸供給事業(アグリゲーター)の位置付けが、需要側を含めた取り組みでは特定計量制度や電力データ利活用といった制度が始まっている。まだ、始まったばかりなので、なかなか浸透していないが、特定計量制度では太陽光のPCSやEVの充電器での適用事例が出ており、電力データ活用では、ようやく認定協会が認定され、箱の用意はできた。FIP制度は、認定情報をまだ見ていませんが、1000kW以上を対象にした第1回入札では計5件の落札があった。ただし、募集容量には届かず、まだこれからといったところだ。逆にFIP電源を含めた再エネアグリゲーションビジネスを提供する事業者が複数でてきている状況だ。

この6月に閉会した第208回通常国会では久しぶりに提出した法案すべてが成立したが、エネルギー・環境関連でも多くの法案が審議・成立し、今年度以降、順次、施行される予定になっている。以下、少し紹介する。

脱炭素関連では温対法改正により、10月に株式会社脱炭素化支援機構が創設され、エネルギー起源問わずGHG排出量削減に資する事業等に国がリスクマネーを供給することになる。既に環境省の方でも人材獲得に動いているとの噂も出ている。いわゆる官製ファンドであり、しっかりと案件のソーシングをし、最適な投資ができるのか人材確保も急務となっている。

省エネ法も従来の化石エネルギーのみを対象にしたものから、非化石エネルギー(電気・熱・燃料)の利用促進が加えられ、特定事業者等にとっては、中長期計画に非化石エネルギーの目標策定と実行・報告が追加されることになる。電気であれば、自前で設置した自家発型やオンサイトPPA、系統を介したオフサイトPPA、自己託送といった需要家自らが非化石電源拡大に取り組むものは重み付けを、ある意味、お金を払えば誰でも買えてしまう再エネ100%小売りメニューやJ-クレジット、非化石証書、グリーン電力証書などは、非化石電気として評価されるものの、重み付けはないといった方向で議論が進んでいる。

また、エリア需給制約による再エネの出力制御発生時や、この6月末のように需給ひっ迫した際に、電力使用を最適にシフトすることを促す施策も取られる。需要家にとっては、非化石エネルギーも計画的に使わないといけない、電力需給状況に応じて使い方も工夫しないといけないといった両面での対応が必要となるが、逆に、エネルギー事業者にとっては、新たなビジネスのネタが転がってくる可能性もあるので、チャンスかもしれない。

また、産業保安についても規律強化や規制緩和をしていくことになる。特に影響が大きいと思われるのが、小出力発電設備への規律強化。具体的には、10~50kWの太陽電池発電設備と20kW未満の風力発電設備を小規模事業用電気工作物と位置付け、これまで高圧以上に課せられていた使用前確認や技術基準適合義務、高圧以上で求められる主任技術者選任や保安規程提出に代替する基礎情報の届出が必要になる。他にも、今回の法改正以外では、4月から電事法施行規則改定で非FIT発電の分割への規制や、現在、経産・環境・農水・国交の4省連携で検討している再エネの適切な導入・管理等、再エネ主力電源化を目指すといっても、ただ闇雲に設備をつくればよいのでなく、しっかりとルールは守ったうえで導入・管理・廃棄までのライフサイクルを運営してほしいとの想いがある。

その他にも、政府の骨太の方針、クリーンエネルギー戦略中間整理、規制改革実施計画といった政府による大きな方向性は提示されつつある。また、再エネ海域利用法のラウンド2向けの公募指針の見直し、電力市場のあり方の見直し、容量市場・ベースロード市場の次回オークションに向けた準備、系統マスタープランのシナリオ策定等、多くの施策が並行して議論・審議されている。

これだけ多くの論点があるなかで、さらに電力需給対策を急務でこしらえ、あまり陽の目に当たっていなかったDRが活況し、脱炭素電源の新設が急がれ、原子力の再稼働や革新炉の開発検討が加速と、課題が積み上げられているのが、現在の日本のエネルギーや環境に係る制度設計の現場になっていると感じる。

筆者も、毎月多くの審議会等をウォッチしていて、全体感を見失いがちになることがあるが、そういう時は、一度、頭をリフレッシュして、あらためて全体像を俯瞰しなおしている。引き続き、このコラムでは全体の動向について取り上げていきたいと思う。

【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。