電力危機に「老朽火力」を緊急招集 姉崎5号機の再稼働準備状況
【JERA】
電力需給ひっ迫を受けた再稼働に先立ち、姉崎火力発電所5号機が報道陣に公開された。
施設には経年劣化も目立つ中、現場は電力の安定供給へ着実な作業を進めている。
火力発電事業者の最大手JERAは6月22日、今夏再稼働を予定する姉崎火力発電所5号機(千葉・市原市、60万kW)を報道陣に公開した。当日は、在京キー局のほか大手紙や専門誌など約30人が参加した。

姉崎5号機は1977年の運転開始から45年が経過。2021年4月に長期計画停止していたが、一般送配電事業者による今夏の追加供給力公募に落札。同じく落札された知多火力発電所5号機(愛知・知多市、70万kW)とともに、7月、8月のピーク需要に向けた再稼働の準備を進めていた。
今年1月と2月にも、姉崎5号機は需給ひっ迫に対応するため運転。経年化の影響で、施設内で振動や不具合が発生していた。3月の停止後は、タービン軸受けやバルブなどを修理、点検に取り組み、今冬の電力需給ひっ迫を見据え、6号機も部品交換などの設備点検を実施した。
また、現在建設中の姉崎新1号機(約65万kW)は8月に、新2号機(同)は12月に試験運転開始を目指すなど、電力の安定供給へ作業を進めている。
タービン内部などを公開 建物外部の塗装に劣化も
現場では、JERAの職員が5号機のタービン内部や5・6号機の中央操作室、ボイラー設備などを紹介した。タービンは公開時、既に毎分10回転で試験運転を行っていた。JERAの担当は「運転を止めた状態のままでいると、タービン翼が歪んでしまう。それを防ぐために昨日(21日)から動かし始めた」と話す。

タービンは毎分最大3000回転で60万kWを出力可能だが「部品が古く調達にも苦労している」(JERA担当)と課題を明かした。火力発電のサプライチェーン衰退は深刻で「今は現存する部品を流用できているが、当然替えが効かないものもある。メーカーが撤退したら、自らで作らなければいけない。その際のコストは計り知れない」(同)と危機感を訴えている。
中央操作室では、操作盤のランプが正常に点灯するかをチェックする「ランプテスト」を公開。職員が合図を出し、問題がないことを確認した。そのほか、ボイラー設備や屋外に設置している脱気器は塗装に劣化が見られた。機能に問題はないというが、ボイラー設備内は移動経路も不安定で、年季を感じる建物となっている。

「無事運転できるように」 姉崎発電所長が意欲
姉崎火力発電所の亀井宏映所長は「1月と2月の運転で修理が必要な場所が明確に分かったので、早急に補修を行った」と状況を説明した。再稼働に向けては「今夏はトラブルがあれば即停電になりかねない。設備の点検には時間とコストがかかるが、電力のひっ迫時に無事運転できるよう頑張りたい」と話し、電力の安定供給に意欲を見せている。亀井所長は6号機に関しても、今冬の再稼働要請が出てもよいように準備を進めると述べている。
7月から全国各地の火力・水力発電所が再稼働することで、8月の全国(北海道・沖縄除く)の予備率は4・4%になった。当面の電力危機は回避したものの、厳しい需給の状況は続いている。万全の準備を整えて7月再稼働を進めた姉崎5号機だったが、6月末の電力需給状況を踏まえ予定を前倒し、6月29日運転再開と変更していた。しかし「起動に向けた補修作業に予定より時間を要すことになった」(JERA)として予定日が1日ずれ込み、30日の運転再開となった。
ある発電事業関係者は「古い機器を無理やり前倒しにしようとすれば、ひずみが生まれるのは当然」と話す。姉崎5号機の現状については「6月末は勿来発電所9号機のトラブルがあり、結果的に姉崎5号機が電力の安定供給に重要な役割を持つことになった。しかし、設備が老朽化して効率が悪くなった火力発電が、その役割を背負うこと自体が問題」と指摘する。
政府による企業や家庭への節電要請は7年ぶりだ。7月から9月末までの節電を呼びかけている。
原子力発電所の再稼働が進まない中、安定供給を一度引退したはずの火力発電が支えている。需給ひっ迫のさらなる長期化も危惧される中で、姉崎火力発電所を訪れ、電力供給の非常に危うい現状と、それを支える現場担当者たちのプロ意識を垣間見ることができた。
