【特集2】現場で感じた「デコミカルチャー」 浜岡1、2号機の廃止措置を見て

2022年8月3日

澤田哲生/エネルギーサイエンティスト

浜岡原子力発電所1、2号機は2009年度から廃止措置を行っている。長年、原子力の問題に向き合ってきた澤田哲生氏が現場での取り組みの状況を報告する。

私はかつて「デコミッショニング(廃止措置)研究会に来ないか」と、石川迪夫翁から声をかけられたことがあった。2014年ごろだった。当時何かと小忙しくしており、このお誘いをおそろかにしたまま今日に至ってしまったことを、今さらながら悔いている。

今回、浜岡1、2号機のデコミッショニングの現場を目の当たりにして、判然として心にわき上がったことが二つある。

まずデコミは事業者のみならず、広く人々にとっての安寧のよりどころであるということ、もう一つは伊勢神宮の式年遷宮のようにテクノロジーの伝承とリフレッシュメントがそこにあるということ。

廃止措置には式年遷宮に通じるものがあった

私には現場のスタッフの皆さんもなんだか張り合いがあるように見えた。これは石川翁の言うところの「デコミは楽しい」の精神に通じると思った。その一方で、デコミにはけっこう一筋縄ではいかない課題もある。

そして、今回のデコミ現場の視察を終えて私が感じたことは、「楽しい」も「複雑」もひっくるめてデコミはカルチャーなのだということだ。

廃止措置の現場に直行 タービンを分解・切断

浜岡原子力発電所にはこれまでに10回以上は訪れている。中学生や高校生、そして原子力に慎重な一般の人々とも見学会を催してきた。新型コロナ禍の期間を挟んで約3年ぶりの訪問である。

まず、スタッフから廃炉のイロハと現状などについて一通り説明を受けた。防潮堤がその後どのようになっているのかも気になったが、今回は1、2号機の廃止措置現場に直行である。

退役したマーク1型の格納容器を横目にしながら、制御棒駆動システムから加圧タンクなどがきれいに撤去された風景のなかを通過して、タービン建屋に向かった。

現在は4段階ある廃止措置の第2段階(15?22年度)における最終フェーズである。原子炉領域周辺設備(主にタービン建屋)の解体撤去が実施されている。

タービン建屋に入ると、タービンの外ぶた部分が外され、タービンブレードや軸受けなどが分解されて置かれていた。そして、それらは順次、大型のバンドソー(金属ノコギリ)に掛けられて細切れにされていく。実際に作業の様子を間近に見たが、時間の流れが非常にゆっくりと感じられた―。とても長い時間を費やす作業なのである。

細切れにされた金属片は、高さ50 cm程度、1・2m四方程度の鉄製の箱に収められる。そして、クリアランスレベル以下か否かを判定するために、放射能濃度の測定器に掛けられる。

クリアランスレベル以下の物々は「クリアランス物(金属)」と呼ばれる。クリアランス物とは、原子力発電所の運転・保守や解体によって出てくるもののうちで、極めて低い放射能レベル(年間0・01ミリシーベルト以下)であると国の機関(原子力規制庁)が確認したものをいう。クリアランス物は、一般の廃材と同様に再利用することが可能になる。

再利用され使われている側溝用のふた

浜岡1、2号機からは、これまでに約530tの金属のクリアランス物が発生している。クリアランス物以外の放射性廃材は、低レベル放射性廃棄物に分類される。

廃止措置によって発生する廃棄物の総量は45万tほどになる。それらは、放射性物質による汚染の有無や程度に応じて三つに分類される。①放射性廃棄物でない廃棄物、②放射性物質として扱う必要のないもの=クリアランス物。そして③低レベル放射性廃棄物―である(図参照)。

浜岡1、2号機の廃止措置での廃棄物発生量

約45万tのうち、①が約35万t(79%)、②が約8万t(17%)、そして③が約2万t(4%)である。

35万tの①だが、これらはほとんどが原子炉建屋やタービン建屋のコンクリートであり、最終の第4段階で発生する。③の低レベル放射性廃棄物もほとんどが、今後始まる原子炉建屋内の廃止措置における格納容器、原子炉圧力容器や冷却系配管の解体によって発生するものである。

低レベル放射性廃棄物は、放射能レベルが極めて低いL3、比較的低いL2、比較的高いL1に分類される。

L3は先例(JPDR、東海発電所)にならえば敷地内に浅地中埋設処分する選択肢もあるが、L1とL2は、処分地は明確になっていない。青森県六ヶ所村の日本原燃敷地内にある低レベル放射性廃棄物の処分場に持ち込めるのは、日本各地の運転中の原子炉から出てくる低レベル放射性廃棄物のみで、運転を終了した後の廃止措置で出てきた低レベル放射性廃棄物は、現状は持ち込まないことになっている。また、L1は比較的少量ながらも70m以深の中深度処分をすることになっている。

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