【コラム/8月12日】再生可能エネルギーの普及に欠かせないビジネスとしてのO&M
渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 社長室長
先日、リアスプ(再生可能エネルギー長期安定電源推進協会)のとある打ち合わせの中で、「今後、再生可能エネルギーの発電所、特に太陽光発電所が増えていく中で、発電所の運営・維持管理をするO&M(オペレーション&メンテナンス)の重要性が高まっていくのでは」という会話があった。脱炭素社会を目指していく中で再生可能エネルギーの重要性は色んな所で話題になるが、再エネ発電所の運営・維持管理というものはどちらかというと黒子的な役割で余り話題になることはないのではないだろうか?今回はその黒子というか縁の下の力持ち的な役割のO&Mについて触れてみたいと思う。
これまではいわゆる電力会社が、地域毎(北海道なら北海道電力、東北は東北電力…といったように)に発電、送配電、小売とワンストップで電力の安定供給を行い、戦後の日本経済の発展をエネルギーの面で支えてきた。電力会社は発電所を資産として自社保有し(自社BSの固定資産)、自社(グループ会社として)で運営・維持管理をしていた。従い、O&Mというのは、ビジネスとしてというよりは電力会社内の一つの機能として行われてきた。
しかしながら、電力の自由化に伴わせて発電所が火力発電所といった大規模な電源(バルク電源)から太陽光発電所をはじめとする全国各地に点在する分散型電源としての発電所が増えてきたこと、それらの発電所の保有者が電力会社だけでなく、機関投資家、事業会社、個人等といった様々な方が保有するようになったことで、発電所を運営・維持管理するということが、新たなビジネスチャンスとして広がってきている。固定買い取り制度(FIT制度)が始まり、再エネ発電所による売電収入というビジネスチャンスに様々な業態のよる参入が促されたわけだが、O&Mというビジネスはその派生的なものとして拡大していくだろう。FIT制度初期のころは、FIT単価が高いこともあり、O&MはEPCひも付き、投資家もそのサービスと対価の関係等をそんなに気にしていなかったが、FIT単価が徐々に下がっていくに従って、期待収益が低下する中でO&Mに対しても費用対効果といった、サービスとしてのO&Mという意識が年々高まりつつあると考えている。この動きは今後益々拡大していくであろう。
こうした中で、手前味噌な話にはなってしまうのだが、私が所属しているリニューアブル・ジャパンのO&M事業について、これまでの取り組みや今後についてご紹介したいと思う。
まず実績として、既に1GW超の太陽光発電所のO&Mを行っている。元々は自社で開発し、自社保有、公募私募ファンド、別の事業者等に発電所を保有していただき、そのO&M受けることからスタートしたが、そこで蓄積したノウハウを活かして、数年前から他社が開発した発電所のO&M部分を受けるということを始めた。その結果として1GW超の発電所を管理するに至ったのである。それを可能としたのは、1つには、全国展開ということであろう。北は北海道から南は九州鹿児島県まで全国約30か所に拠点を構え、可能な限り地元の方を採用している。また、新しいO&M受託する発電所が既存の拠点の近くにあれば、その拠点から管理することになるが、ない場合は、新たに地域拠点を開設して対応している。今後、もちろん地域特化型のO&M事業者もあるとは思うが、保有者が色んな地域に保有しているのであれば、全国展開していることは魅力的に思えるのではないだろうか?
また、特別高圧、高圧といったように様々な規模の発電所にも対応していること、サービスメニューとして遠隔監視業務やサイト管理業務、保安業務、報告書作成といった一般的なものだけでなく、計画策定や地元対応といった幅広いサービスメニューを用意し、顧客のニーズに合わせたサービスを提供できることであろう。体制としても電気主任技術者が多数在籍しているだけでなく、EPCや土木の人材もバックアップ体制として有していることも大きいであろう。そして価格面である。FIT単価が高い頃はO&Mコストはそれほど、議論にならず、EPCとセット、セカンダリーで譲渡する時はO&Mがセットということがよくあることであるが、売電単価が下がるにつれて、O&Mサービスに対する費用対効果の要求はますます高まっているであろう。そうした中、ノウハウを蓄積することによる業務効率の改善、徹底的に内製化を進めることでのコスト削減、高専生を始めとした若手人材を新卒から採用して、現場で実務経験を積み上げながら主任技術者として育成していく「RJアカデミー」育成プログラム、多数の発電所を個別でなく統合的に発電収入等の予実対比といったものを月次レベルでの報告ではなく、リアルタイムでのモニタリングできるウェブサービスシステム「ソーラーバリュー」といったものを将来的に提供していこうと考えている。
今後、太陽光発電所を中心とした再エネ導入量の拡大を通じて、カーボンニュートラルを目指していくうえで、事業規律、地域との共生といったことが叫ばれている中、O&M事業者がそれらのことを意識しながら、お互いに切磋琢磨し、ビジネスとして発電所保有者の期待に応えられるサービスの向上に努めることは、余り語られてはいないことではあるが、実はとても重要なことである。
【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。