【目安箱/8月25日】太陽光普及を混乱させる小池都知事の失策

2022年8月25日

◆説明されない「太陽光と人権」問題

東京都は、新築住宅への太陽光発電設備の設置義務化を検討中だ。小池百合子都知事が自ら政策実現を目指しているという。都はそのP Rのために『太陽光発電 解体新書』というQ&A集を出した。

筆者は再エネを応援する立場だが、この冊子の説明は物足りない。太陽光発電は、年3兆円の巨額な再エネ賦課金の補助金の一部で支えられることや、環境破壊などで住民の反対運動が起きていることなど、今起きている問題を言及していない。問題がある行政文章と思う。

「太陽光と人権」の問題についても、記述が不十分だ。この「Q&A」の19番で以下の質問と回答がある。

「Q・太陽光パネルの生産は中国に集中しており、新彊ウイグル自治区における人権問題が懸念されていますが、社会的な問題はないのでしょうか?」

「A・住宅用の太陽光パネルのシェアが多い国内メーカーのヒアリングによれば、 当該地区の製品を取り扱っている事実はないとの回答を得ています。引き続き、国や業界団体等と連携しながら、SDGsを尊重した事業活動を推進していきます。」

この説明では懸念は払拭されない。IAEAが発表したリポートによれば、現在の新疆ウイグル自治区の太陽光発電の原材料のシェアは40%であるが、世界的な材料不足の中で近日中に95%まで増える可能性があるという。

そして中国製の太陽光発電設備が、ウイグル地区での囚人労働などに関係しているという疑惑が囁かれ、欧米諸国でその輸入禁止が検討されている。しかし中国政府は同地域での調査に応じていない。また、このQ&Aでは日本で流通する太陽光パネルは7割が日本企業の製品と強調しているが、実態は中国での現地生産か、OEM生産だ。太陽光パネルによって、人権侵害が行われているか、何も説明していない。

東京都が太陽光パネルに関して人権侵害と関係していないと調査し、証明を発行すれば、世界にインパクトを与えるだろう。しかし、このQ&Aの解答を見る限りそこまで手間のかかることはせず、単なる「ヒアリング」で終わりそうだ。

◆エネルギー問題が政争の材料になった10年

このまま東京都が新築住宅の太陽光発電設備の設置義務という政策に突き進めば、中国の利益を増やし、人権侵害問題に加担してしまう可能性がある。さらに太陽光普及の問題に、政治や民意を絡め、複雑にしてしまうだろう。

エネルギー産業に関係する人は誰もが、2011年からの10年、業界の制度づくりが政治と民意に左右され、予想できない形に事業環境が激変し、今も続いていることに唖然とする経験を持っているだろう。2011年の東日本大震災と、その後の東京電力の福島第1原発事故の後で、原子力と電力会社への反感でエネルギー政策が動いた。当初は原子力批判だったのに、ガスやエネルギーの自由化に話が広がり、それが拙速に決まったため、今もさまざまな問題が残っている。

2011年までのエネルギー産業は業界、消費者団体、専門家、そして行政の合議で、先行きや制度が決まっていた。その議論では一応、経済合理性が貫かれることが多かった。ところが2011年以降、民意や政治にエネルギー問題が振り回されるようになった。それはメリットも多少はあったであろうが、総じて混乱というデメリットの方が多かったように思う。革新政党などの左派政治集団が、反原発や電力会社批判を、政争の道具に使った。騒いだ人たちは今、エネルギー問題は票にならないためか、別の問題に関心を向けている。とても虚しい。

そして中国は日本の経済、政治でのライバルとなり、その行動は安全保障の脅威だ。同国を巡る問題は、社会的関心が高い。特に、保守派、右寄りの人が中国批判で、敏感に反応する。左ほど組織化されていないが、日本ではネットを中心に強く、安倍政権を支えるなど、政治的影響力も大きい。さらに太陽光パネルは、その設置による自然破壊問題を各地で引き起こしている。

「日本を守る」という問題に敏感に反応する保守派の人は、太陽光と中国の人権という2つの問題が重なった「東京都の新築住宅への太陽光発電設備の設置義務化構想」の問題に反応しやすいだろう。しかも、これまで指摘したように、東京都は「中国」「人権」「太陽光発電」の3つの関係を曖昧にしている。

◆「右」の反応で政治が動いたら?

このまま都がこの政策を進めると、今度は「右」の民意と政治の介入で、問題がどのように転がるか予測がつかなくなる。「左」の民意で原子力とエネルギー業界がこの10年経験したことと、似た状況になるかもしれない。小池都知事は自らの行動で問題を複雑にしている。その政治勘の鈍さに驚く。

これは再エネの事業者にも深刻な問題となるかもしれない。再エネは今、多くの問題を抱えて動いている。地域社会との共生が行われずに反発が日本各所で噴出している、環境破壊の住民の懸念に応じない業者がいるなどだ。業界自らの自主規制も遅々として進まない。そこに、この東京都の行動が加わると、今ある太陽光発電への反発をさらに大きくさせ、中立に冷静に設計すべきエネルギーシステムと再エネ振興策を、政治化させ、混乱させてしまう可能性がある。

東京都の新築住宅への太陽光発電設備の設置義務化の活動は、一見すると太陽光の支援策に思える。しかし実は違う結果をもたらす可能性がある。推進する都と再エネ事業者は、この振興策を取り下げる、もしくは中国と人権問題など、政争になりそうな問題を解決してから政策を進めるべきである。

このコラムで、筆者は再エネに厳しいことを言った。しかし本心は多くのメリットを持つ再エネを日本のために拡大すべきだと、考えている。これは再エネの未来を憂いての苦言だ。