設立4年目の新生労組 多様な人材抱え試行錯誤
【電力事業の現場力】JERA労働組合
東京・中部電力からの社員の転籍を受け、2021年に誕生した。
旧一般電気事業者の枠組みにとらわれない、福利厚生制度の構築が課題だ。
発足から間もなく10年を迎えるJERA。労働組合の活動には新たな船出に胸が躍るとともに〝生みの苦しみ〟もあった。
2021年4月、東京電力や中部電力からの出向者の多くがJERAに転籍した。JERA労組は半年後の10月に誕生することになるが、それまでに東電労組と中電労組で「新しく労組を作る」という難作業があり、時間をかけて丁寧に対応した。発足後は、会社側との交渉の末、高年齢期雇用制度や退職給付制度などを統合・構築。新たにJERA健康保険組合を設立した。
22年以降は新卒・中途採用者が急増し、他社で経験を積んだ人材がJERAの門をたたく。働く人の多様性は企業の課題解決力や生産性向上につながる一方で、労組に求めることはさまざま。「他社に比べて労働条件が劣後しているのでは」―。時にはこうしたストレートな声も寄せられ、「制度を作る上で、何が正解なのか」(松井秀典書記長)と、しばしば悩まされる。
「職場が原点」という理念の下、労組役員は国内の現場はもちろん、これまで、台湾、インドネシア、シンガポール、米国、インド、タイ、英国、ベルギーで働く組合員のもとを回ってきた。JERAは海外で法人を設立し、現地の人材を雇用して事業を展開することが多い。社員が配偶者とともに海外へ赴任し、そこで子どもが産まれることもある。しかし、福利厚生や給与体系などは旧一般電気事業者の制度設計を参考にしたものが多く、「現状との整合性が取れなくなっている」(同)。いかに現場の声を聞き、〝JERA流〟の制度を構築するかが課題だ。
語学力よりも技術力 労組の役割とは何か
JERAが成長する中で、近年は発電事業、再生可能エネルギー事業、燃料事業など各部門の「個」の強みが増してきた。とはいえ、JERAの強みは、あくまでも上流から下流まで自社でバリューチェーンがつながっていることにある。個の強さゆえに、全体のつながりが途切れてしまっては本末転倒だ。この点、労組は管理職以外の社員全員が同じ組合員。組合活動は社内の一体感醸成にも一役買うことのできる存在なのだ。
人材育成にも課題がある。海外勤務には語学力ととともに技術力も欠かせない。「現場では英語で上手く伝わらないことが図面を書けば伝わり、信頼を得ることができる」という、海外の現場で働く組合員の言葉はそれを象徴している。海外勤務を夢見て入社した社員も、まずは国内の現場でこれまで積み上げ、連綿と継承されてきた運転・保修技術の習得が重要。海外への気持ちがはやる中で、学ぶ姿勢、それに応える真剣な指導と教育、人材を生かすローテーションや仕組みが不可欠だ。
松井氏は労組の活動で悩むと、事務所の壁に掲げた綱領を見上げる。「働く者の団結をはかる、組合員と家族のよりよい生活をめざす、社会の平和と発展のために貢献する」と記されている。「綱領を実現するために動けばいいんだ」と前向きになれるといい、〝育ての喜び〟をかみ締めながら試行錯誤を続ける。
労組は「会社のチェック機能」と言われる。設立9年目のJERAの成長は早い。そんな中でJERA労組は「常にブレーキを踏むのではなく、いざという時よく効くブレーキ」(栁沼宗昭委員長)であり続ける。