【視察②】印象に残った挑戦的取り組み わが国が学ぶべき点とは

2025年1月6日

【エネルギーフォーラム主催/海外視察・団長印象記】

山地憲治/地球環境産業技術研究機構〈RITE〉理事長

4日で8カ所訪問(キャンベラで3カ所、メルボルンで5カ所)という慌ただしい行程だったが、今回の豪州視察は大変充実した内容で学ぶところが多かった。

豪州では、日本の20倍の面積に約2500万人が住んでいる。天然ガスや石炭など化石燃料資源に恵まれているが、近年は太陽光や風力など再生可能エネルギー利用が急速に伸びている。州によって電源構成は異なるが、人口の多いニューサウスウェールズ(NSW)、ビクトリア(VIC)、クィーンズランド(QLD)の3州は、現状ではまだ石炭火力(ビクトリアは褐炭)が5割を超えている。ただし、この3州に続いて人口の多い西オーストラリア(WA)州では天然ガス火力、続く南オーストラリア(SA)州では風力・太陽光、それに続くタスマニア(TAS)州では水力が圧倒的な主力電源になっている。

山地団長(右)とテッド・オブライエン氏

主要3州でも太陽光や風力の導入は3割程度まで拡大している。面積の大きさに比して意外に感じたが、太陽光は屋根置きの小規模設備が多いのが豪州の特徴である。脱炭素目標はわが国とよく似ており、2030年までに05年比で温室効果ガス43%削減、50年にはネットゼロを掲げている。また、エネルギー起源のCO2が温室効果ガス排出の約85%を占めるところも似ている。ただし、22年の連邦選挙で保守連合から政権を奪った労働党は再エネを主力とした脱炭素実現を目指しており、電源構成では30年までに82%という野心的な目標を掲げている。


野党議員が原子力導入に意欲示すも 実現には険しい道のり

今回の視察先は、政策関連機関、電気事業組織、蓄電所、水素やバッテリーに関するスタートアップとバランス良く構成されていた。訪問順とは少し異なるが、この順番で視察概要と印象を取りまとめておきたい。まず、キャンベラでは連邦政府の気候変動・エネルギー・環境・水資源省(DCCEEW)と国会を訪問して政策に関する調査を行った。特に国会では、野党の有力議員にインタビューするという貴重な経験をした。

DCCEEWは、老朽化した石炭火力を再エネ+バッテリーで置き換え、水素を活用して脱炭素目標の達成を目指している。洋上風力の開発で雇用や投資の活性化を図り、太陽光発電設備やバッテリー開発でも自国生産による産業創出を目指している。水素戦略についても、需給両面や地域のメリット追求などで具体的目標を掲げ、航空機や大型トラック、農業などの分野での脱炭素化を進めている。水素プロジェクトの価格差支援については、現在の候補を1~3件に絞るとのことだった。原子力導入の可能性について質問したが、野党の政策のため官僚としてはコメントできないが、現状では法律で禁止されているのでハードルは高いとのことだった。

ヘイゼルウッド蓄電所の制御について耳を傾ける

国会では、野党・保守連合の有力国会議員テッド・オブライエン氏と意見交換をした。同氏は、50年カーボンニュートラル(CN)という目標については与野党一致しているが、与党・労働党の政策は風力・太陽光という再エネに依存し過ぎていると、明確で説得力のある主張を展開した。その中で、今後設計寿命で廃止する石炭火力の跡地に新型の原子力(SMRと大型軽水炉)の導入を目指していると明言した。同氏はCN実現には活用できる技術は総動員すべきであり、具体的に、CCS(CO2の回収・貯留)を使った石炭や天然ガス利用、タスマニアの水力資源を活用した水素戦略などにも言及した。また、石炭やガスの輸出は続けるべきであり、日本は重要なパートナーだと述べた。私からは同氏の主張は現実的でわが国の政策と共通していると申し上げた。

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