【コラム/3月24日】激動の2024年度から実行の2025年度へ
加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長
2025年も早3カ月が経とうとしており、あっという間に新年度の息吹が聞こえる季節になった。24年度は、エネルギー業界にとって、大きな3つの政策がまとめられるなど、慌ただしさが目立つ1年であったが、25年度は、そうした政策をいかに具体的な施策に落とし込み、実行に移すことができるかといった段階に入ると見られる。
そこで今回は、25年度以降の主な施策について取り上げたい。
GXの政策は産業立地と成長志向型カーボンプライシングから始まる
2月に閣議決定された「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂」では、エネルギーと産業政策が一体となった政策で、40年度という目標年度を設定し、GX2.0として大きく8つの論点について課題や他対応の方向性が整理された。エネルギーについては、第7次エネルギー基本計画と整合される形で記載がされている。
このビジョンをいかに具体化していくかが25年度からの課題となる。産業界にとっては、新たなビジネス機会にも繋がる一方で、排出量取引制度や化石燃料賦課金といった新たに課される義務への対応が必要なことには留意が必要である。
25年度に、まず取組が行われるのが、GX産業立地にある「ワット・ビット連携」である。この1年ほど、AIの進展などによるデータセンターの新増設に伴い電力需要が伸びる見通しが注目されており、GX2040ビジョンや第7次エネルギー基本計画の中でも、そうした電力需要に必要な脱炭素電源の確保や系統増強が謳われている。現在、日本国内で東京圏と大阪圏に集中しているデータセンターの地方への分散化、通信ネットワークインフラの整備といった課題を解決するために、3月には「ワット・ビット連携官民懇談会」が立ち上がった。デジタル行財政改革会議での石破茂首相からの指示に基づき実行されたもので、今後、6月を目途に、総務省・経済産業省が共同で具体化を進めていくことなる。これにより、現在、計画されている広域系統のマスタープランや局地的大規模需要対策、再エネの導入拡大、原子力発電の既設炉の最大限活用(再稼働、運転延長)および次世代革新炉の建設、LNG火力の活用、内外無差別な卸売など、様々な制度への影響も出てくるだろう。
次に、GX財源を活用した先行投資であるGX経済移行債の償還原資となる成長志向型カーボンプライシング構想のうち、排出量取引制度と化石燃料賦課金の制度設計が具体化することなる。2月には「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」の一部を改正する法律案が閣議決定され、開会中の通常国会に提出された。特に、26年度から本格運用される排出量取引制度については、この改正法案で正式に法定化され、CO2の直接排出10万t以上の企業や発電事業者に全量無償割当の形で制度参加が義務化されることとなる。義務対象となる企業にとっては、割当量次第だが、熱や燃料の省エネや非化石燃料あるいは電化への転換により排出量の削減を強いられることとなり、仮に割当量を超えて排出した場合に排出枠やクレジットを調達・償却することになれば、その分、CO2対策コストがかかることとなり、製品への上乗せ(転嫁)が行われることが予想される。CO2削減対策をするにしても設備投資などのコストがかかるため、いずれにしてもコストが転嫁されることになるが、その中でもCO2排出量の低い製品を選ぶといった評価の在り方(GX製品の評価)も確立していく必要があるだろう。
また、排出量取引制度では、発電事業者も対象になることから、特に非効率石炭火力については、容量市場の稼働抑制リクワイアメントを考慮すると、例えば、春や秋の電力需要の軽負荷期には稼働率をかなり減らすといったことに繋がるだろう。その場合、再エネ出力制御量は軽減され、その間の系統電力のCO2排出係数も低減することが予想される。
まずは法案の審議と成立・公布が必須条件となるが、対象となる企業、また間接的に影響を受ける企業も、法律公布後の詳細設計含め、その状況は注視しておく必要があるだろう。
電力システム改革検証を踏まえた制度改正の動きが進むか
15年度に電力広域的運営推進機関が創設されてから今年で10年が経つが、この間、電力小売全面自由化、送配電分野の法的分離といった第5次電力システム改革が実行され、その検証が24年度に行われた。多くの関係者からのヒアリングをもとに、今後の電力システムが目指す姿や事業者に求める役割といったことが整理された。
その検証結果の中には、制度改正を伴うものも多く含まれる。そのため、25年度には、そうした制度改正に係る議論を行う新たな会議体を設け、年内に方向性を整理することが記載されている。その中で、法改正が必要なものがあれば、おそらく26年通常国会に電気事業法改正が法案として提出されることになるだろう。
対応が必要な施策のうち、既に関連審議会で議論されているものも多い。例えば、大規模脱炭素電源の事業期間中の市場環境の変化に伴う収入・費用の変動に対応できる制度措置や市場環境の整備では、洋上風力発電において再エネ海域利用法の促進区域での公募落札事業者への物価変動を配慮する価格調整スキームや保証金没収要件の緩和、セントラル方式の基本化などのルール整備が整理されており、今後、促進区域が指定される第4ラウンドから適用される予定となっている。また、短期的な需給運用の効率的な実施として、同時市場の検討を本格化することが挙げられているが、既に同時市場の在り方等に関する検討会では再キックオフがなされ、引き続き各検証が行われている。
一方で、経過措置料金の今後のあり方や小売電気事業者に量的な供給能力(kWh)確保のための責任・役割や遵守を促す規律や制度的措置、広域系統マスタープランの見直しなど、まだ具体的な議論に着手していない施策も多い。
事業者にとって、制度変更は、事業機会とリスクの双方を併せ持つものであることから、この動きも注視すべきものになるといってもよいだろう。