【コラム/3月25日】「東日本大震災・福島原発事故14年を考える~最高裁判決と福島再出発への願い」
飯倉 穣/エコノミスト
1,東日本大震災
東日本大震災・福島原発事故から14年となる。今年も3月11日午後2時46分追悼の祈りがあった。岩手や宮城の三陸沿岸の市町村の人的・物的被害は甚大だった。人の死、大事な住宅やコミュニテイの喪失等があった。震災前から大きく変わった地域社会の中で生活再建する被災者の複雑な思いが伝わる。そして直近の大船渡山林火災である。福島県浜通りは、津波に加え、福島第一原発事故があった。強制的な避難も要請され苦難が継続した。
復興の進捗も気に掛る。被災地の多くが、過疎地だったことも、人口減に拍車を掛けている。とりわけ福島第一原発周辺地域は、変容した。最近まで帰還困難となっていて、復興がほぼ終了したといっても、賑わいが戻りそうにない。その様相を伝える報道があった。「福島 進まぬ帰還 居住人口当時の17% 東日本大震災14年」福島県内7町村(毎日25年3月11日)。避難が長引いた地域ほど帰還の動きは鈍いことや原発避難見直しの再考を書いた。直前に長い公判を経た東電福島原発事故刑事裁判最高裁判決もあった。
福島復興の状況を見ながら、改めて福島第一原発事故の対応と現在を考える。
2,福島復興の状況
福島県「ふくしまの現在~復興・再生の歩み第15版」(新生ふくしま復興推進本部24年12月)は、復興の現況を8項目(産業は細目6)で整理している。(以下カッコ内は現状)。
現況は、①除染(空間線量低下)、②避難指示区域の縮小、③県民健康(調査継続)、④帰還者等生活環境整備進展、⑤公共インフラ99%完了、⑥産業は、・農林水産物輸入規制国減少(残6か国)、・観光県産品は回復基調、・企業立地(出荷額1/4水準)、・福島イノベーションコースト構想具体化中、・福島国際研究教育機構設立、・再エネ拡大過程(県内エネ需要比再エネ55%)で、⑦廃炉・ALPS処理水(取組中)、⑧風評・風化対策努力継続である。
復興が進んでいる点は、空間線量率低下、観光誘客促進、道路等交通網整備、福島イノベーションコースト構想、県産物の消費拡大・販路開拓、災害記憶の継承等である。他方未達成な継続課題は、廃炉推進、ALPS処理水処分対応、復興途上の26千人の避難者の存在、中間貯蔵施設の除去土壌県外処分、風評対策、農林水産物価格の全国との価格差である。つまり残された課題は、原子力発電所関係問題に絞られてきている。
多くの被災者は、10年ひと昔であろうか。現国力の下で、全体の復興関連予算支出40.9兆円(12年間うち復興財源対象経費32兆円、含む福島)で漸くここまで到達した(他に原発事故処理費用計23.4兆円:廃炉汚染水処理8兆円、賠償9.2兆円、除染4兆円、中間貯蔵2.2兆円:23年末)。
3,人口と経済は
浜通りの人口(2市7町3村)は、震災前195千人(11年3月)から現在110千人(24年1月)で、△85千人減(△ 44%減)である。福島原発立地近接町村(第一:大熊、双葉、第二楢葉、富岡。浪江、葛尾)は、67千人(11年)から現在7千人(24年1月)で、△30千人減(△90%減)だった(この時点で大熊、双葉、浪江は未帰還)。
経済の動きをみれば、福島県県内総生産は、震災で1割程度落ち込み、現在約8兆円(22年度)であり、震災前(10年度)の5%上方の水準である。原発のあった相双地域の市町村内総生産計は、震災で生産が半減した後、現在8400億円程度(21年度)で震災前の9割程度の水準にある。火力発電の再稼働や再エネ等の推進はあったが、地場産業的に定着していた福島原発の停止・廃止が大きく影響している。今後の経済拡大は、一次産業再生、地場産業起こし、サービス産業期待となっているが、公的関与の低下が懸念される。故に働く場との絡みで人口の戻りや流入に難渋が予想される。今後の展開を考えるうえで、地場産業的な福島第二原発や事故を免れた福島第一原発5・6号機の扱いに疑問を抱く。
(注)浜通り2市7町3村(=相双地域):相馬市、南相馬市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯館村)
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