【特集2】地産地消エネを最大限に活用 官民の役割分担で事業性確保
【新地スマートエナジー】
東日本大震災からの復興によるまちづくりで、福島県新地町にスマートコミュニティが誕生した。町と11社の民間企業が出資する地域エネルギー会社「新地スマートエナジー」が2019年春から電気と熱の供給を開始し、今も順調な事業運営が行われている。
スマコミの拠点は、津波によって壊滅的な被害を受けたJR新地駅の周辺エリア。エリア内に建設した新地エネルギーセンターが電気と熱の供給を担う。5台のガスエンジンコージェネレーションシステム(出力35 kW×5基)で発電し、その排熱は熱交換機や排熱投入型吸収冷温水発生機(422kW)に活用。ガス吸収冷温水発生機(422kW)や電動スクリュー冷凍機(冷房能力60 kW)、温水ボイラー(加熱能力581kW)3台で冷水・温水を製造する。センターの壁面や屋根、需要家の施設には太陽光発電システム(計85 kW)を設置した。エリア内でつくられた電気や熱は、自営線と熱導管を通して公共施設や民間の温浴施設などで使われている。
また、コージェネの燃料には、石油資源開発の相馬LNG基地からパイプラインで供給される天然ガスを使用。災害時にも持続可能な供給体制を構築している。さらに、蓄電池(50 kW時)やBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)を使い、CEMS(地域エネルギーマネジメントシステム)による最適制御を実施中。まさに、地域のエネルギーを地域内で最大限に活用する「地産地消の分散型エネルギーシステム」が確立されているというわけだ。
町がエネ設備を所有 採算性ある供給目指す
事業の運営方法にも大きな特長がある。町が自らエネルギー施設を所有し、運用は新地スマートエナジーに委託している。新地スマートエナジーは電気と熱の販売で収益を上げ、運用費のみを賄えば収支が成り立つスキームだ。
民間企業が持つ実績とノウハウを活用できる点も強みだ。出資企業の一社である日本環境技研は、加藤憲郎・前新地町長がスマコミ事業の実施を決断し、検討を始めた当初から事業に参画。国の補助事業の活用に向けた調査をはじめ、エネルギーセンターやエネルギーマネジメントシステムなどの実施設計を行い、事業の具現化を叶えてきた。同社は「事業採算性はまだまだ厳しいが地方自治体主体の安定供給を支えていきたい」としている。新地町では今後、農業施設などに対し、電気と熱とともに排ガスから回収したCO2を供給し、作物の生育に活用するトリジェネレーションの導入を計画中だ。官民連携が奏功したスマコミの次なる展開が注目される。
