【特集2】万博で海水と帯水層を熱利用 地の利生かした冷房システム
大阪・関西万博は4月の開幕から日を追うごとに盛り上がりを増している。今後ますます重要になる酷暑対策に、地域熱供給を使った空調システムが活躍しそうだ。
大阪・関西万博の開幕から、早くも2カ月が経過した。夏の訪れとともに来場者数のさらなる増加が見込まれる中、重要となるのが酷暑対策だ。この課題に、会場では地域熱供給方式を活用した「集中冷房システム」が大きな役割を果たしている。
73のパビリオンに供給 建築美と高い親和性
日本熱供給事業協会は6月5日、万博会場内の熱供給施設を報道陣に公開した。会場内では、4カ所に設置された熱源設備で製造した冷水を全長約9kmの配管を通じて73のパビリオンに供給。各パビリオンでは、冷水を利用して冷風を作り館内を冷却している。
一般的な商業ビルやホテルでは建物ごとに室外機や熱源設備を設置するケースが多く、それに伴うスペースの確保が必要となる。同協会技術部長の鶴崎将弘氏は、「建築美を追求した多様なパビリオンが立ち並ぶ会場では、空調設備が空間設計の妨げになる可能性がある。省エネ性やレジリエンス性が高く評価されている地域熱供給方式は、この点においても非常に親和性が高い」と説明する。実際、1970年の大阪万博や2005年の愛知万博でも同様の方式が採用されてきた。

今回の熱供給施設では、冷水をより効率的に製造するため、外気を使用しない二つの冷却方式を採用している。その一つは「海水熱利用方式」だ。冷水を製造する際には、吸収した熱を外部に放出するための冷却水が必要となる。通常は冷却塔で外気と熱交換して冷却を行うが、今回はその一部に温度の低い海水を使用して冷却する仕組みを取り入れた。鶴崎氏は「海水を活用することで冷却塔の電力消費量を抑えられる。また、海水熱は再生可能エネルギー熱の一つでもある」と強調する。
もう一つは、地下の「帯水層」を活用する手法だ。大阪市の地下約60mには、年間を通じて20℃弱の地下水が溜まる帯水層がある。この層に通した2本の井戸を使い、冬季にくみ上げた水を一方の井戸に蓄え、夏季の冷却に利用することで、さらなる省エネを実現している。
熱供給施設の運用管理を行うDaigasエナジーの担当者は、「海水と帯水層の利用は、海に囲まれ、地下に帯水層がある夢洲の好条件があってこそ実現できた」と説明。地の利を生かした冷房システムが、万博の運営を支えている。