【特集2】課題解決の切り札として脚光 分散型システムの用途が拡大

2025年7月3日

分散型エネルギーシステムを導入する動きが再び加速してきた。電力需要への対応や災害時の安定供給など、多方面で活用されている。

再生可能エネルギーやコージェネレーションシステム、蓄電池などの設備を限定した地域に配置して最適制御する分散型エネルギーシステム。エネルギーロスが少ない、災害時の安定供給、環境負荷の軽減、地域経済の活性化―などの利点から全国で導入が進んでいる。

DCの早期稼働に寄与 国も有効策として期待

そんな分散型エネルギーが新たな用途で脚光を浴びようとしている。データセンター(DC)での活用だ。AIの急速な進化とともに、インターネット上で扱うデータ量が全世界で急増。DCの電力消費量はうなぎ上りに増えると見られる。国際エネルギー機関(IEA)はチャットGPTの電力消費はグーグル検索の約10倍に上るとの試算を公表している。この莫大なデータ量と電力需要のための電源の確保が課題となっている。


DC建設に合わせ、電源を確保するには、送電網や変電所の増強が欠かせない。立地条件によっては整備に10年以上を要する場合もあるとのことだ。そこでより短期に建設するために考えられているのが、電源のある敷地内へのDC建設、DC建設場所への電源併設といった手法だ。送電線を整備せずに運用できるため、国外ではGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)などが、大規模発電所の隣接地へのDC建設を相次いで発表している。

分散型エネ利用に期待がかかるデータセンター


国内でもこうした動きが始まっている。電力と通信インフラを効率的に整備することを目的に、総務省と経済産業省は3月から「ワット・ビット連携官民懇談会」を開催。6月の「取りまとめ1・0」では、DC地方分散の推進と運用の高度化を検討策として、「DCにおける蓄電池やコージェネの整備により、既存の電力インフラをより有効に活用する事業環境の可能性を検討」と分散型エネルギーの活用について記されている。


都市ガス業界ではDC建設の動きを商機と見ている。同業界が提案するのは、ガスエンジンなどのコージェネをDC敷地内に設置して、電気を供給し、廃熱から冷水を作り出して空調に利用するという仕組みだ。4万kW規模の発電設備を建設する場合、発注から引き渡しまで2年程度と、DCの早期稼働に寄与できる。


大型電源のある供給元にエネルギー需要をつくり、分散型エネルギーのような仕組みを構築する取り組みも始まっている。さくらインターネットとJERAは6月、JERAのLNG火力発電所の構内へのDC建設を検討する基本合意書を締結した。発電所内にDCを設置することが可能であれば、新たな送電網の建設が不要になり、DCの早期稼働が期待できる。また、DCの消費電力の大部分を占める冷却システムに、JERAのLNGの冷熱を活用することが考えられる。この取り組みを含め、ガス利用の新たな用途に注目が集まっている。

停電時にも供給を継続 全国の自治体に普及の動き

分散型エネルギーの一つとして、特定エリア内でエネルギーを自給自足するマイクログリッド(MG)が挙げられる。MGは大規模災害などで長時間の停電が見込まれる場合、既設の電力系統からMG対象エリアを切り離し、エリア内の電力システムを使い、独立して運用できる。現在、全国で10弱の自治体が導入。有事への備えとして関心が高く、今後さらに普及していく見込みだ。


千葉県いすみ市では2019年の台風15号による大規模停電を教訓にMGを導入した。太陽光発電設備を市庁舎と中学校(合計279kW)に設置。中学校には、同設備に加えて蓄電池(238kW時)とLPガス発電機(計100kW)を配置した。三つの電源を高度に制御することで、いすみ市庁舎と避難場所に指定された大原中学校を取り囲むエリアの約30軒に災害時にも電気を供給する。

いすみ市は台風被害を教訓にMGを構築した


また、昨年4月、沖縄県宮古島市全域が停電した際には、市内の来間島で構築していたMGを稼働。同市の他の地域に比べ早期復旧が実現した。


一方で課題もある。建設・運用全般にかかるコストだ。いすみ市の場合、事業投資額は約7億円。有事に備えた設備とはいえ、投資額に対し、収支を合わせるのは困難と言われている。資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部新エネルギーシステム課の山田努課長は「初期投資だけでなく、運用コストも意識する必要がある。限定したエリアでの需給バランス維持は、大規模系統に比べてコストがかかる傾向にある。このため、平時での発電を自家消費やエリア内の共用に充て、系統からの購入電力量を削減し、ピーク電力を低減するなどして、収支のバランスをとることが肝要だ」と説明する。


限られたエリアに小規模な熱源設備を使って、地域冷暖房などに利用する熱供給にも注目が集まる。コージェネなどの設備運用で低炭素化を図れることから、全国的な普及が進んでいる。この追い風となっているのが、昨年4月の温室効果ガス排出量算定・報告・公表(SHK)制度の改正だ。


熱の環境価値を評価した係数の公表やCO2排出係数ゼロメニューの提供が可能となり、日本熱供給事業協会の会員事業者のうち、4分の1が係数を公表。需要家が国に報告するCO2排出削減量は合計で約5万3000tを見込む。今年4月には、丸の内熱供給と池袋地域冷暖房が「カーボンオフセット熱メニュー」を公表。東京メトロ7駅の空調などに使用する全ての熱のカーボンニュートラル化を実現した。


一時は脱炭素化で系統電力より存在感が薄れていたものの期待が高まる分散型システム。本特集ではその最新動向に迫る。