【特集2】船舶へのLNG供給体制を整備 脱炭素化への国内モデル確率へ

2025年8月3日

【大阪ガス】

大阪ガスが海運業界でのLNG燃料転換を本格化させている。バンカリング事業を通じて海運業界の低・脱炭素化に貢献していく構えだ

大阪ガスは船舶のLNG燃料転換を後押しするため、LNGバンカリング(燃料供給)の体制整備に注力している。海運業界では国際海事機関(IMO)が2023年7月、50年までにGHG(温室効果ガス)排出を実質ゼロ、30年までに08年比で20~30%削減するとの目標を発表した。これを受けて、低炭素燃料としてLNGのニーズが高まっている。世界的にLNG燃料船の導入が進んでおり、稼働中と建造中の船舶を合わせると現在、世界で約1000隻超まで増えているとのことだ。LNGバンカリングの拠点は欧州やシンガポールで整備が進んでおり、この動きに追随する形で、国内でも供給インフラの整備が急がれている。


LNGバンカリングには主に三つの方式がある。一つ目はTruck to Ship方式だ。これは岸壁に駐車したタンクローリーからLNGを供給するもので、大型船の離着岸をサポートするタグボートやフェリーなど中小規模船舶の供給に適している。大ガスは19年からグループ会社のDaigasエナジーを通して、商船三井のグループ会社である日本栄船が運航するLNG燃料タグボート「いしん」に同方式で燃料を供給している。


二つ目のShore to Ship方式では、岸壁に係留中の船舶に対して陸上のLNGターミナルから直接LNGを供給する。LNG基地の設備があれば、大規模な設備投資を必要とせず活用できるのが利点だ。


大ガスは今年4月、同方式による供給を開始。同社泉北製造所第二工場(大阪府高石市)で商船三井が運航するJFEスチール向けのLNG燃料鉄鋼原料船「VERDE HERALDO」への供給を実現した。このように二つの方式はすでに事業化している。

Shore to Ship方式でのバンカリング

船で停泊地まで輸送 荷役作業中の供給が可能に

LNGバンカリングの普及に向け、本命となるのが三つ目のShip to Ship方式だ。バンカリング船にLNGの積み込みを行い、LNG燃料船の停泊地まで輸送。横付けしてLNGを供給する。


特に大型コンテナ船や自動車運搬船などは、時間管理が厳格であり、港湾に長時間停泊する余裕が少ない。同方式であれば、荷役作業中に効率的に補給を終えられる。

Ship to Ship方式での供給イメージ

LNGバンカリングを担当する資源トレーディング部テクニカルチームの山田裕久ゼネラルマネジャーは「この方式なら航路スケジュールへの影響を最小化できる。大ガスの製造所で積み込んだLNGを、大阪湾や瀬戸内地方に寄港するLNG燃料船を対象に供給していく計画だ」と説明する。


同社100%子会社の大阪ガスインターナショナルトランスポートは、NSユナイテッドタンカー(NSUT)、阪神国際港湾とともに「大阪湾LNGシッピング」を設立。同社がバンカリング船を建造・保有し、NSUTにリースする。大ガスはLNGをLNG燃料船の運航会社に販売。NSUTは大ガスから輸送委託を受けて、運航・管理を行う。

LNGバンカリングの供給スキーム

タンク兼用で設備簡素化 運用面の高効率を実現

バンカリング船は全長86・29m、LNGタンクの容積は約3590㎥、LNG払出能力は毎時約1000㎥の規模を有し、同船自体もLNGを燃料として航行する。LNGタンクはType-C方式を採用し、再液化装置が不要。1基のタンクから供給と自航用の燃料を賄う。タンク内の気化ガスは自然圧で気化し、エンジンへと送られる。これにより設備の簡素化と高い運用効率を実現している。同船は下ノ江造船(大分県)が建造中で、26年度上期の事業開始を目指す。


「将来的にはバンカリング船の複数体制による冗長化やShore to Ship方式との組み合わせによる安定供給体制の強化を計画している。また、50年GHG実質排出ゼロに向け、e―メタン(合成メタン)への切り替えも視野に入れている。LNGインフラをそのまま活用できるのは利点だ」。山田ゼネラルマネジャーはこう強調する。

「安定供給を目指す」と山田氏


海運業界の脱炭素化に向けて、産業が集積する大阪・瀬戸内発のLNGバンカリングの取り組みは国内モデルの確立と国際競争力強化において果たす役割が大きい。船舶燃料としてのLNGにも、さらに関心が高まりそうだ。