【コラム/8月15日】再生可能エネルギー電源拡大に潜むジレンマ
矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー
今年の2月に、第7次エネルギー基本計画が閣議決定されるとともに、関連資料として、2040年度のエネルギー需給見通しが提示された。同見通しで示された2040年度における電源構成を見ると、再生可能エネルギー電源は4~5割程度と最も比率が高い。
第6次エネルギー基本計画に記された「再エネ最優先の原則」は削除されたものの、再生可能エネルギー電源が主力電源として大きな期待を担っていることには変わりがない。しかし、再生可能エネルギー電源、とくに陸上風力発電や大規模太陽光発電の大幅な導入拡大については、一部の自治体で既に顕在化しているように、パブリックアクセプタンス上の問題が生じる可能性がある。本コラムでは、この問題について掘り下げて考察を行いたい。
わが国では、2021年5月の地球温暖化対策推進法(温対法)の改正により、地方自治体は地球温暖化対策実行計画を策定し、温室効果ガス排出量の削減に努めることが義務づけられた(2022年4月施行)。地球温暖化対策実行計画の中では、各自治体は、ステークホルダーとの協議を踏まえて、地域の再生可能エネルギーを活用した脱炭素化を促進する事業(地域脱炭素化促進事業)に関して促進区域、環境保全のための取組、地域の経済・社会の持続的発展に資する取組についての方針などを定めるよう努めることが規定されている(温対法第21条第5項)。
各自治体が積極的に再生可能エネルギー電源の促進区域を指定することで、同電源の設置が促進され、地域経済が活性化することが期待される中で、2022年7月に全国で初めて長野県箕輪町が促進区域を設定し、2025年3月現在56の市町村が再生可能エネルギー電源の促進区域を設けている(全国1700超の地方自治体のうちわずか3%)。
地方自治体が積極的に再生可能エネルギー電源の促進区域を設定することが期待される一方で、北海道や青森県などのように再生可能エネルギー電源の立地を厳しくする動きもある。北海道は、市町村が再生可能エネルギー電源導入の促進区域を設けるに当たって、排除すべきエリアを示した道の「環境配慮基準」(2024 年11 月)を策定したが、これが陸上風力発電の導入にブレーキをかけることになるのではないかと関係者は懸念している。
環境配慮基準では保安林や地域森林計画対象民有林などを促進区域から除外している。しかし、風力発電に適した場所は山林に広がっている。北海道は全国でトップクラスの再生可能エネルギー電源のポテンシャルを有するが、環境配慮基準がGX投資にネガティブな影響を与えることが懸念される。
また、北海道釧路市では国立公園となっている釧路湿原とその周辺などで太陽光発電施設の建設が相次いでおり、とくに開発が厳しく規制される国立公園から外れた「市街化調整区域」での建設が進んでいる。希少な動植物への影響を懸念した市は、市街化調整区域も含めて、市内全域での10kW以上の事業用太陽光発電施設の設置を許可制(現在は届け出制)とする条例案を、今年の6月19日に市議会の民生福祉常任委員会に示した。今年9月に定例市議会に条例案を提出し、来年1月1日の施行を目指すことになる。加えて、旭川市は今年度、太陽光発電と風力発電の立地に関して「ゾーニングマップ」を作成する。有識者の見解も踏まえて、鳥獣保護などが必要な「保全エリア」、開発しやすい「促進エリア」、その中間の「調整エリア」に分けて作成する。大部分は「保全」か「調整」エリアとなる見込みで、再生可能エネルギー電源の「乱開発」の抑制を目指す。
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