【コラム/9月12日】米国の電気料金上昇とデータセンター拡大の見えざる罠

2025年9月12日

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

米国の電気料金は着実に上昇し続けている。米国エネルギー情報局(EIA)が2025年7月に発表した「短期エネルギー見通し」によると、家庭用電気料金は2022年から2025年にかけて約14%上昇すると予測されており、2026年も約4%の上昇が見込まれている。同国では、2013年から電気料金の動きはインフレ率にほぼ連動していたが、2022年以降は電気料金の上昇率がインフレ率を上回るようになり、この傾向は2026年まで続くと見られている。

電気料金の上昇に関して地域差を観察すると、興味深い事実を確認することができる。EIAによれば、2022~2025年間で、全国平均と比べて料金上昇が著しい地域は、比較的料金水準の高いニューイングランド、中部大西洋沿岸、太平洋沿岸などの地域であるが、西南中部、西北中部、東南中部などの比較的料金水準の低い地域では、それほど上昇しない傾向にある。例えば、上記期間における料金上昇率は、ニューイングランド地域では19%であるの対して西北中部地域では8%となっている。米国では、もともと地域間の料金格差が大きいが、最近のこのような動きは料金格差を一層拡大させていると言えるだろう。因みに、現在、家庭用電気料金が最も高いハワイ州と最も安いアイダホ州の料金格差は約4倍となっている。

電気料金に関して、最近大きな注目を集めたのが、自由化の優等生とされる米国東部の地域系統運用者(RTO)であるPJMの管轄地域(13州とワシントンDC)のいくつかの地域で、この夏20%を超える大幅な料金値上げが行われるというロイターのニュースである(7月9日)。電気料金上昇の背景として指摘されるのは、AI技術の急速な普及とデータセンター新増設などにより電力需要が急増していること、これに対して、老朽火力の閉鎖や再生可能エネルギー電源の系統への接続の遅れなどで、供給力が追い付いていないこと、さらに、これらと関連してPJMの容量市場における約定価格が高騰していることなどである。

PJMの管轄地域では、バージニア州北部に位置する世界最大のデータセンター集積地である「データセンターアレー」を含め、AIを支えるためのデータセンターが急増し、これに伴い電力需要が大幅に増えている。PJMの予測(2025年1月)によれば、データセンターの拡大で、2035年までの今後10年間でシステム全体で最大55ギガワットの追加需要が予測されている。この数値は、約55基分の原子力発電所に相当する電力を意味し、AIやデータセンターの普及が電力需要に与えるインパクトの大きさを如実に物語っている。

また、需要急増と供給力不足を反映して、PJMの容量市場では、約定価格が2024年7月のオークションでは前年比800%の上昇、2025年7月のオークションでは上限価格($329/MW-day)に張り付き22%の上昇となった。これに伴い、PJMの管内の電力会社は、電気料金の引き上げを行っている。このような状況の中で、ペンシルベニア州の知事ジョシュ・シャピロ氏は、最近の大幅な料金引き上げはPJMの容量市場の欠陥によるものとし、今年の初め、容量市場における上限価格の引き下げなどを要求し、PJMからの退出も検討すると述べている。このような批判もあってか、PJMのCEOマヌ・アスタナ氏は年内一杯で退任することを表明している。

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