【特集2】潜在的な需給調整力に期待 DR価値向上の仕組みが重要
デマンドレスポンス(DR)活用が期待されるエコキュート。1000万台の需給調整力をどう生かすべきか、話を聞いた。
インタビュー/岩船 由美子・東京大学 生産技術研究所 教授
―エコキュートのDRに活用に向けた動きが始まっています。普及には何が必要ですか。
岩船 累計出荷台数分(1000万kW)は需給調整力として大きなポテンシャルです。「給湯」という基本的な需要とセットでDRに使える点も理想的な活用法だと思います。
従来の深夜料金もDRの一種と考えると、太陽光発電(PV)の余剰電力に対する需要をつくるには、昼間に安くなる料金プランが欠かせません。さらに、一般消費者が意識せず需給調整をする上では、電力卸市場の取引価格に連動する「市場連動型料金」が最適です。日本で導入している小売り事業者は数社しかありませんが、米カリフォルニア州では、電力会社がこうした料金プランを必ず設定することになっています。今後はこうした柔軟な料金体系を構築するべきです。
―今後は、通信・遠隔制御機能を持つDRready対応機種が登場してきます。
岩船 それらの機種を料金プランに連携させることもDRには有効です。そのためにはアグリゲーターや小売り事業者とメーカーとの協力は必須です。また、メーカーが開発する上でのインセンティブとなるよう、新機種への補助金や優遇措置の整備も求められます。
一方、今後導入される次世代スマートメーターには「IoTルート」が搭載され、新機能やサービスの追加が可能になります。この仕組みでエコキュートやEVなどを制御できる可能性があり、検討が始まりました。
―電力需要ひっ迫時にガスに切り替えられるハイブリッド給湯機器も有効ですか。
岩船 貯湯タンクが小さく集合住宅には導入しやすい。実は、「ヒートポンプ×電気温水器」のハイブリッドも有効だと思っています。電気温水器は省エネにはなりませんが、低価格で単身世帯にも普及を促せます。再エネが余り過ぎるのであれば、CO2削減を目指す上では電気温水器による需要創出・DRも視野に入れていくべきだと思います。
―直近の課題についてお聞かせください。
岩船 国際的には、GHG Protocol Scope 2 ガイダンスにおいて、「電力消費のタイミングにより近いタイミング、かつ電力消費がなされる地域によりふさわしい時刻別地域別CO2排出係数の利用を必須とする」といった改定案が提出されています。時刻別地域別CO2排出係数で需要の帰属するCO2排出量を算定すると、PVが発電する昼間の数値は低くなるので、DRのメリットが明確になります。今後は、こうしたDRの価値を高める仕組みづくりが重要になってくるでしょう。

いわふね・ゆみこ 東大大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了(工学博士)。住環境計画研究所、東大生産技術研究所特任教授などを経て23年より現職。