重要性増す「電力と通信の融合」 異業界間つなぐ共通認識の形成が鍵

2025年11月12日

【電力中央研究所】

インタビュー:馬橋 義美津/電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 研究統括室 上席

東京電力で系統計画業務などに従事後、電力・通信間でのシナジー創出に奔走してきた馬橋義美津氏。

ワット・ビット連携の概要や関連する次世代技術を分かりやすくまとめた新著の読みどころを聞いた。

─新著では、電力・通信の双方の視点からワット・ビット連携の論点を整理されています。

馬橋 本の執筆には、私の経歴が関係しています。1992年に東京電力に入社し、系統や電源投資に関する計画策定業務などに従事してきました。その後、東京電力ホールディングスとNTTが共同出資で設立したTNクロスに参画し、電力と通信を融合して次世代のビジネスを創出する取り組みを進めました。アサインされた2020年当時は、「電力」と「情報通信」が一緒に考えられていたわけではなかったですが、その先駆的な試みを現場で経験していたわけです。23年に電力中央研究所に入所し、現在に至ります。

TNクロス時代、NTT出身の方と共同で事業を推進するにあたり、業界間の文化や考え方の違いに何度も直面しました。同じ言葉を使っていても、業界が異なれば、意味や前提にズレが生じるということを痛感させられました。簡単な例を挙げると、電力側からすれば「ケーブル」は送電設備を指しますが、通信側は光ファイバーを想起します。このようなすれ違いも多く、用語の定義や前提をすり合わせ、共通認識を築くことが不可欠でした。本書はそうした経験を基に、誰でもわかりやすい内容にすることを心掛けました。

馬橋氏の新著『ワット・ビット連携』(電気書院)


通信で電力供給を最適化 岡本氏の構想が土台に

─改めて、ワット・ビット連携の概要とその考え方が急速に広まった背景を教えてください。

馬橋 AIの普及に伴い、それを支えるデータセンター(DC)の建設が世界的に拡大しています。その結果、今後は日本でも電力需要が大幅に増加すると想定され、供給力の確保が喫緊の課題となっています。

こうした状況下で、電力(ワット)を情報(ビット)の力で最適化するという発想が生まれました。地域ごとの需給や設備の稼働状況を通信技術で把握し、電力に余力のある場所へ消費を振り分ける。全体として供給力と需要のバランスをとるのが「ワット・ビット連携」の基本理念です。例えば、再生可能エネルギーの導入量が多い地域でDCを運用すれば、需要地系統への負荷軽減が期待できます。 岡本浩さん(東京電力パワーグリッド取締役副社長執行役員CTO)は以前から「Utility 3.0」という構想の中で、電化の進展と電力消費量の増大を主張してきました。AIの台頭により岡本さんの構想が一層現実味を帯びたことで、ワット・ビット連携のような考え方が求められるようになりました。

1 2