日本のDRの歴史と共に歩んだ10年 需要側リソース拡大へ電化の促進担う

2025年11月4日

【エナジープールジャパン】

インタビュー:エナジープールジャパン代表取締役社長兼CEO

仏デマンドレスポンス(DR)サービス大手、エナジープールの日本法人が設立から10年を迎えた。

市村健社長は「日本のDRの歴史は当社の歴史とシンクロしている」と、この間を振り返る。

―設立から10年、日本の電気事業制度において果たしてきた役割をどう振り返りますか。

市村 ある政府幹部から「日本のデマンドレスポンス(DR)の歴史とエナジープールジャパンの歴史が重なりますね」と、ありがたい言葉を頂戴しましたが、それはともかく、DRの意義は、この10年間で大きく変わりました。10年前は、東日本大震災後の供給力不足に陥っていた中で、需要のピークを抑制するために実施されていました。現在はそれ以上に、大量導入された太陽光発電を最大限に活用するために、フレキシビリティ(需要の柔軟性)を提供する役割が期待されています。DRの担い手を「アグリゲーター」と呼びますが、今はむしろ「フレックスプロバイダー」と呼ぶのが適切です。

―市場の在り方や商慣行が違い、フランスのサービスを単に持ち込んだだけではうまくいかなかったのではないでしょうか。

市村 欧州では電気はコモディティ商品ですが、燃料をほぼ全て輸入に依存する日本では必ずしもそうではありません。そういう意味で、私が日本人であり、大手電力会社出身で日本の電気事業の現場・現実を一定程度理解していたことで欧州ノウハウを日本に合わせやすかった、ということはあるかもしれません。資源エネルギー庁の審議会委員として制度議論に参画していますが、DRの現場・現実と制度議論の間にはギャップがあると実感しています。例えば、制度設計上、DRは負荷ですが、実際にDRの前線にいるのはクライアントです。双方を理解し、そのギャップを埋める意識は常にあります。

円滑なDRの発動のため需要家との協議を重ねている


経済DRでkW抑制 猛暑の需給に貢献

―確かに需要家にも生産計画があり、電力需給の都合で変更を強いることはできません。

市村 そうです。例えば、今年の夏は相当暑かったため、これまで通りであれば発動指令電源への発動が頻発してもおかしくなかった。ところが、この暑さでもHI需要(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)はそれほど伸びていません。要因の一つとして、経済DRがうまく機能し、kW時(電力量)は増えてもkW(電力)を抑えられているという仮説は成り立ちます。これは、電力業界と需要家にとってウィンウィンの状態だと言えます。需要家によるDRを単なる負荷と捉えるのではなく、お客さまとしての需要家ときちんとコミュニケーションできる関係を築けたことは、この10年間の一つの大きな成果です。


系統混雑回避の機能提供 熱利用分野の電化が不可欠

―今後、電力需要が急拡大する可能性が示唆されています。ビジネスへの影響は。

市村 そうした新たな局面においては、結局のところ系統混雑をどう解消するかが大きなテーマとなります。系統増強は社会コストが膨らみますから、インフラを維持するために必要なコストは最低限投資しつつ、需要側で混雑回避を図る実務が非常に重要になるわけです。

50万、27万5000Vの上位2系統の混雑処理は、TSO(一般送配電事業者)の役割です。ところが、太陽光の多くが接続されるのはローカル系統や配電系統であり、この領域での混雑処理の担い手は、小売り事業者側のバランシンググループ(BG)にならざるを得ない。つまり、日本の電気事業は今後、TSOとBGが協働しながら成り立たせていく時代に向かっていく。そうした中でフレックスプロバイダーには、小売りBGに系統混雑回避の機能を提供し、協働しながらローカル系統以下に接続されている太陽光の価値を最適化、最大化していくという役割を果たすことが求められることになるはずです。

―50年に向けた展望は。

市村 わが国の経済が再生を果たすためには、一次エネルギー自給率を高める必要があります。そのためにも大手電力会社には原子力発電所の再稼働と新増設にまい進していただき、政府にはバックエンド政策を着実に進めていただくことを期待しています。青森県六ヶ所村の日本原燃の再処理工場は、自給率と安全保障を担保する切り札になり得ますから、必ず竣工・稼働していかなければなりません。

一方で、導入された太陽光は最大限に活用するべきで、それには、需要側のリソースをさらに拡大していく必要があります。蓄電池も有効ですが、レアアースやレアメタルの集合体である限り経済安全保障の観点で問題があります。それよりも需要側のリソースをIOT化し活用することで、太陽光を出力制御することなく使い切ることが、カーボンニュートラル(CN)時代に目指すべき姿です。

本当に50年CNを目指すのであれば、最終エネルギー消費の約7割を占める化石燃料の直接燃焼に由来する熱利用を電化することは不可欠です。熱利用を電化すれば、おのずとフレキシビリティを提供するための需要側リソースは増え、それによってさらに電化が加速するという好循環が生まれます。50年に向けて必要なのは、何よりも電化の促進であり、当社としても小売りBGとともにその役割を担っていく覚悟です。

いちむら・たけし 1987年慶応大学商学部卒、東京電力入社。米ジョージタウン大学院MBA修了。原子燃料部、総務部マネージャーなどを歴任。15年6月に同社創業。