【論考/11月25日】亡国の「暫定税率」廃止 なぜ日本を弱体化させるのか⁉
円安が原油高の主因を成す現実から逃避し、国の将来の為に今あるべき税率を考えようともせず、しかも課題解決に挑む創造力を自ら萎縮させる「日本弱体化」政策――。それが燃料油価格補助金に続く暫定税率廃止である。

11月5日、自民と日本維新の会の与党2党、および立憲民主、国民民主、公明、共産の野党4党により、ガソリン、軽油の特例税率(いわゆる暫定税率)をそれぞれ今年末、来年4月1日に廃止することが正式合意された。基本的に前政権下で定まった既定路線の踏襲だが、軽油の暫定税率廃止が明確となる一方、年間約1兆5000億円とされる減税分の財源確保は「今年末までに結論」と先送りされた。移行を円滑にするべく、目下価格補助金が段階的に引き上げられており、12月中旬にはガソリン・軽油小売価格に暫定税率廃止と同様の値引き効果が現れる。
「挙国一致」で進められるガソリン、軽油の暫定税率廃止だが、これは日本の原油高対策としても、また石油政策、安全保障政策としても根本的に誤っている。この過誤が全政党によって見過ごされ、これをただす冷静な議論が政治の場で提起されない事態は、今日の日本の視野の内向化・狭窄化、国力の衰弱を鮮明に映し出している。
2022年1月末以降の燃料補助金の誤謬と弊害を、筆者は本誌上で指摘してきたが、内容の重複に寛恕を乞いつつ、暫定税率廃止の問題点を以下に論じる。
問題からの逃避:日本の「原油高」は円安が主因
言うまでもなく、原油高とは、日本の原油輸入費用の増大、をいう。したがって、原油高対策の第一義的な目標は、日本の原油輸入代の低減だ。ところが2022年以降、現在までほぼ4年間、補助金によって国内燃料油価格を人為的に抑制し続ける中で、この本来の意味での原油高対策は置き去りにされてきた。問題から顔を背けるその逃避の姿勢は、今回の暫定税率廃止にも引き継がれてみいる。

日本の原油輸入価格は、ドル建ての国際原油価格と円・ドル為替レートの積で決まる。ロシアによるウクライナ侵攻以前の22年1月を基準とし、その後の日本の原油輸入価格の上昇を分析すれば、早くも22年・第4四半期から円安効果が主因となっていたことが分かる(図1参照)。昨年の年間平均では原油輸入価格上昇の9割弱が円安効果による。ドル建て価格は22年1月に1バレル当たり約80ドルだったが、昨年11月にはこれを割り込み、今年1~9月平均値も75ドル強と、むしろ「原油安」に転じている。
言い換えれば、これまで今年の「日本の原油高」は100%円安に帰因している。日本にとって原油高とは、すぐれて円安問題なのだ。原油高対策とは、まず何より現今の行き過ぎた円安を是正し、適度な円高を促すものでなければならない。この簡明な点を全政党が無視している。
ところで22年以降の円安、22年1月の1ドル115円に対し、昨年平均・150円強―の最大の原因は、1000兆円を超える国債発行残高、30年間以上赤字の続く基礎的財政収支と、日本の財政が重度の慢性疾患に陥っていることにある。日銀の国債保有率の突出した高さも相まって、インフレ環境下での金利上昇に対する財政・金融上の脆弱さが、円の反発力を著しく制約している。
よって円安を主因とする日本の原油高を是正するには、国債発行残高と将来の基礎的財政収支の黒字見通しとの整合性を回復すべく、財政規律の強化につながる施策を講じなければならない。また、石油が日本の最大の輸入品目である以上、円安是正のためには、その輸入抑制を促す施策が必要となる。
しかし累積予算額8兆円の燃料油補助金も、今回のガソリン、軽油引取税率をほぼ半減とする大幅減税も、日本の財政規律を犠牲とした国内の「石油大安売り」であり、財政負担を増すと同時に石油輸入を下支えし、円安圧力を生む。即ち、日本の原油輸入費用を増大させる「原油高誘導策」である。
今年6月、日本のドル建て原油輸入単価はバレル当たり70ドル強で、22年1月対比9ドル強下落している。もし為替レートが22年1月時点と変わらず115円を保っていれば、この間の原油代の円建てでの下落幅は1ℓ当たり約7円となる。22年1月の日本のガソリン平均価格は168円だったから、同じ下落幅を当てはめると、今年6月は161円となる。
これは実際の補助金投入後の価格173円より12円安く、21年後半の平均価格とほぼ等しい。このように、円の価値が守られていれば、国際原油価格の動きに合わせ、財政に何ら追加的負荷を掛けずとも、国内燃料油価格は十分に下落していた。円の防衛は、日本の本来の意味での原油高対策の核心にある。ところが、円の価値に打撃を与える大規模補助金・減税措置が、「原油・物価高対策」の名の下に行われている。ここに誤謬の最たるものがある。


