【コラム】再生可能エネルギー大量導入とサブスクリプション型電気料金

2026年10月19日

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

国内外で再生可能エネルギーが大量導入されているが、それが電気料金の設計にどのような影響を及ぼすであろうか。これに関連して、オーストラリア・エネルギー市場委員会(AEMC)は興味深い提案を行っている。AEMC は、2025年末、電気料金の根本的改革を求めるドラフト提案を公表し、その中でサブスクリプション型(定額・固定料金に近い仕組み)を一つの選択肢として提示した。同提案は大きな反響を呼び、ABCやFinderなど複数のメディアで取り上げられた。例えば、小売・エネルギー分野のテーマを多く扱う業界向けインサイトメディアACCIOは、2026年2月13日のニュースで、AEMCは、使用量ベースからNetflixのようなサブスクリプション型への電気料金の移行を提案したと伝えている。

AEMCがドラフト提案したサブスクリプション型電気料金は、実際には消費者にとっての選択肢の一つとして挙げられたもので、全国一律に義務づけるものではない。また、その位置づけは今年6月に発表された最終報告書でも変わっていない。しかし、政策当局がサブスクリプション型電気料金の意義を認めたことは大変興味深い。その提案の背景には、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの急速な拡大により、従来の料金制、とくに単純な従量料金では実態を反映できなくなってきたことが挙げられる。

将来的に、再生可能エネルギーが電源の大部分を占めるようになると、電力供給の限界費用はゼロに近づいていく。その一方で、電源や系統の資本コストが増大し、供給コストの構造は資本集約的となっていく。そのような場合には、電気料金の設定に関して、電力すなわちkWの重要性が高まり、電力量すなわちkWhのそれが低下していく。 また、電気料金は、供給側の要因ではなく、需要側の要因によって決められることになるだろう。すなわち、顧客の負荷容量、フレキシビリティの提供能力、選好する購入電力の構成などが重要になってくるだろう。

再生可能エネルギーの大量導入で電気料金をどのように見直していくべきかを論じた文献は多数あるが、サブスクリプション型への移行を提案する議論は、比較的早い段階から展開されてきた。本稿ではその代表的な文献(Lo, Helen ,et al.〔2019〕:Electricity rates for the zero marginal cost grid)を参照し、同論文が提示するサービス契約モデルを、説明上「サブスクリプション型電気料金」と呼びつつ、その内容を紹介したい。

再生可能エネルギーの大規模導入と送配電系統の増強が進むにつれ、電力システムの費用構造は、資本費が支配的で限界費用がゼロに近い、Lo et al. のいう「ゼロ限界費用グリッド(電力供給システム)」へと移行する。このような状況では、従来の電気料金モデル――従量料金制や、固定費部分を十分に反映しない二部料金制――は、電気事業の費用構造と乖離し、将来の投資判断に必要なシグナルを提供できなくなる。Lo et al.は、電力会社と消費者の間の金銭的なやり取りは、消費者が電力会社に対して「どのようなインフラ容量を望むのか」を事前に明確に伝える仕組みとして設計されるべきだと主張する。すなわち、料金は単に過去に投じられた資本費・運転費を回収するためのものではなく、将来の新規容量に対する需要を示す前向きのシグナルとして機能しなければならない。消費者が望むサービス水準や柔軟性に応じて、電力会社がどの程度の容量を整備すべきかを判断できるようにすることが重要である。

この観点から、Lo et al. は、電力会社が複数のサービス契約メニュー(サービス契約のポートフォリオ)を提示し、消費者が自身の希望・価値観・経済力に応じて選択できる仕組みを提案する。これらのサービス契約は、以下のような側面で差別化される。

  • 容量・サービスレベル:系統混雑時に最低限確保してほしい容量の大きさ
  • 自動化:需要管理のためにどの程度の自動化技術を導入し、どれだけの柔軟性を系統に提供する意思があるか
  • 炭素強度:公的に設定された脱炭素目標を超えて、より低炭素の電源構成を希望するか
  • 地域発電:地元の発電事業者からの電力供給をどの程度重視するか
  • 低所得者向けオプション:所得制約に応じた特別な料金体系
  • ナノグリッド:自家消費型太陽光・蓄電池を主体とし、系統をバックアップとしてのみ利用するか

消費者がこれらの契約メニューの中から特定のプランを選択する行為は、電力会社に対して「どれだけの容量を確保してほしいか」、「どの程度の自動的負荷削減を許容するか」といった将来の容量確保に関する価格シグナルを事前に提示することになる。 例えば、低容量・高自動化プランを選ぶ消費者は、ピーク時に自動的な負荷削減を受け入れる意思を示し、電力会社はその分容量を抑制できる。一方、高容量・高信頼性プランを選ぶ消費者は、混雑時でも高い容量確保を求めるため、電力会社はその需要に応じた容量確保を計画することになる。

このように、サービス契約のポートフォリオは、消費者の多様なニーズと価値観を反映しつつ、電力会社に対して将来のインフラ確保に必要な情報を提供する仕組みとして機能する。容量制約は系統混雑時にのみ発動し、その制約を遵守するための自動化プログラムを電力会社が提供するなど、容量と自動化の組み合わせに応じた多様なプラン設計が可能となる。以上が Lo et al. の提示するサービス契約モデルの骨格である。

しかし、電力市場が自由化され、送配電部門が法的・経営的に分離されている制度環境において、このようなサブスクリプション型電気料金をどのように実装し得るのかという論点が生じる。自由化後の制度のもとでは、小売事業者が顧客との契約内容(容量上限や自動化レベルなど)を系統運用者と適切に共有し、系統運用者がその情報を系統計画や混雑管理方針の策定に活用できるようにすることが不可欠となる。したがって、両者間の密接な情報連携を制度的に確保する仕組みが、サブスクリプション型電気料金の実装に向けた前提条件となる。

また、自由化市場のもとでは電気料金の設計は小売事業者に委ねられ、サブスクリプション型電気料金を一律に強制することは制度上困難である。この点については、容量上限や自動化レベルといった契約情報の構造を標準化し、系統運用者との情報連携を確保することで、料金メニューそのものを統一しなくてもサブスクリプション型電気料金を実質的に機能させることが可能になる。さらに、標準化された契約情報に基づく料金設定は、小売事業者にとって料金設計・情報管理の複雑性を低減し、供給コストの構造を正確に料金へ反映させることを容易にする。その結果として、料金の未回収リスクを縮減し得る点で、サブスクリプション型電気料金の導入に対する小売事業者のインセンティブともなり得る。

わが国でも、電源構成が資本集約的な構造へと移行しつつあるが、将来的に資本費が支配的で限界費用がゼロに近い世界が到来すれば、料金制度の設計思想そのものを再検討する必要性が高まる可能性がある。