インフラ企業ならではの団地再生 継続的に関わり地域の未来を育む

2020年12月30日

【西部ガス/福岡県宗像市】

福岡県宗像市は福岡市と北九州市の中間に位置し、両政令指定都市のベッドタウンとして発展を遂げてきた。

同市にある九州最大級の団地「宗像・日の里」は21年で開発から50周年を迎える。日本住宅公団(現・UR都市機構)が開発し、面積は東京ドームの50倍に近い約217万㎡。駅に近く、多くの人が移り住み、街は活気に溢れていた。だが半世紀を経た今、建物の老朽化や空き家の増加など、課題を抱える。住民の高齢化率約35%という高い数字は、日本の10年後の姿だという。

UR都市機構は20年、公募していた日の里団地の一部、約1万8000㎡の土地建物を「福岡県宗像市日の里団地共同企業体」に譲渡した。共同企業体は西部ガスのほか、住友林業、パナソニックホームズ、セキスイハイム九州などのハウスメーカー8社と、街づくりをプランニングする東邦レオの計10社が名を連ねる。

10棟の団地が立ち並んでいた土地は6棟を解体撤去した後に引き渡されたが、既存棟を生活利便施設として活用し、拠点化することが条件として挙げられていた。既存棟の活用と新築の戸建というハイブリッド型の団地再生事業だ。


ハイブリッド型団地再生は、日の里5丁目地区で進められる

西部ガスの都市リビング開発部暮らし・まちづくり推進グループの今長谷大助マネジャーは、「ここは都市ガスエリアではないので、最初は参加しようとは思っていませんでした」と振り返る。

こうした中、グリーンインフラを担う東邦レオの吉田啓助ディレクターが、西部ガスが手掛けた北九州市城野地区の街づくりを視察。西部ガスとチームを組めば新しい取り組みができると考えた。互いに街づくりへの思いを話すうち、「地域に元気を届けるインフラ企業になりたい」という同じ思いを持っていると気付いた。

西部ガスは共同企業体に参加して土地建物を所有する一方、東邦レオと連携して既存棟を共同運営する体制を取った。

所有者が運営するという形態は従来のエリアマネジメントにはない発想だ。開発した土地に長期的に関わることはデベロッパーの事業として成り立たないからだ。

団地再生は、既存棟1棟を残すことになった。残した48号棟を「さとづくり48」と名付け、リノベ改修。1階を中心に地域に開かれたコミュニティースペースを展開する計画だ。地ビールを製造するブリュワリー、住民のためのDIY工房、コミュニティーカフェ、保育所、福祉施設などの入居が予定されている。

改修してコミュニティー拠点となる既存棟「さとづくり48」

また、更地には64の戸建住宅を新築する計画だ。一帯を緑地化し、塀や垣根で敷地を区切らず住宅を建てる。キャンプ場の中のバンガローのイメージで、公園の中にいるような暮らしをつくり、コミュニティー形成を後押しする。

「周りとの関係性の中で暮らす場所にしたい。災害時の共助や20年後、30年後の助け合いが生まれるコミュニティーづくりに寄与したいです」(今長谷マネジャー)

事業のコンセプトは「サスティナブル・コミュニティ」だ。半世紀にわたる日の里の歴史を大切にしつつ、新たなコミュニティーを付加する―。コミュニティーの持続可能性を軸とした社会の実現を目指している。

子どもを中心に街をつくる 地域を巻き込むプロジェクト

コロナ禍では、運営の計画を大きく方向付ける出来事があった。例年通りの総合学習ができなくなった、日の里地区の小中一貫校である日の里学園から、工事エリアの囲いに絵を描かせてほしいとの申し入れがあったのだ。

これをきっかけに、地区内の小・中学校に通う子どもたちのアイデアを取り入れた街づくりが始まった。今ではPTAや学校の先生、団地の自治会や地域の大人を巻き込んで、子どもたちが実現したいこと、やりたいことを大人が全力で叶えるというプロジェクトに発展した。

「10年後、20年後の街を作るのは、この子どもたちです。自分の街は自分で変えられるという思いが、子どもたちの中に芽生えています」(今長谷マネジャー)

大人と子どもが一緒になって街をつくる

西部ガスと東邦レオは運営の一環としてこのプロジェクトを積極的に支援している。団地再生は住民が主役であり、地域が活性化することによって実現すると考えているからだ。

今長谷マネジャーは「需要家を増やすことも大切ですが、日の里に深く継続的に関わることで、『圧倒的な信頼』を築きたいと思っています。インフラ企業だからこそできる街づくりなのです」と、日の里との関わりは新しい営業の形だと意気込む。地域の交流が盛んになり、日の里団地が活性化すれば、団地の入居率も上がって、結果としてガスの利用も増える。戸建エリアでプロパン利用のエネファームが設置されれば、災害に強い街になる。

「さとづくり48」の本格オープンは21年5月。戸建エリアは9月に着工し入居開始は22年4月の予定だ。ハイブリッド型団地再生という日の里の取り組みは、全国の団地再生のモデルとして注目を浴びることになりそうだ。