【特集2】データサイエンティストからの指南 CO2削減に向けた利活用

2021年5月3日

データを活用した新ビジネスの創出―。多くのエネルギー会社が課題とする部分だろう。データサイエンティストの草分け的存在、河本教授に話を聞いた。

インタビュー:河本 薫/滋賀大学データサイエンス学部教授

本誌 データサイエンティスト(DS)とはどんな職業ですか。

河本 一般的に、データからビジネスや社会的価値を創造する人を指します。私は①ビジネスDS、②AIDS、③理論DS――の三つに分類して考えています。①ビジネスDSはデータの分析力でビジネス課題を解決できる人材を指します。②AIDSはAIを使って人工知能システムを作る人、③理論DSは数学を使い何らかの証明をする人を言います。私は①ビジネスDSに当てはまります。

現場と一体となって取り組む 成功への三つのステップ

本誌 ビジネスDSに求められる仕事内容とは。

河本 一般的には数学的知識やプラログラミングを駆使するイメージを持たれますが、それだけでは解決できません。ビジネスDSの仕事には「見つける」「解く」「使わせる」の三つのステップがあると考えます。「見つける」では、社内にどのような解決すべき課題があるか探したり、分析のためデータを成形しないといけません。

 「解く」は、現場の人に「押し付けられた」という感情なく、納得感を持って受け入れてもらう。そうしたものを引き出せるような解き方が問われます。

 最後の「使わせる」は、最も難しいです。今まで勘と経験で責任感を持ってやってきた担当者を否定してデータ分析のやり方に変えるには、現場と一体となって取り組まなければなりません。

 これら三つのステップを経て課題解決にたどり着きます。現場の知識とデータ分析のキャッチボールで進んでいきます。完全に分けることはできません。

本誌 エネルギー会社がデータを活用した新ビジネスの検討する上で気をつける点はありますか。

河本 「エネルギーに関するデータはお客さまにとって大切なもの。役に立つもの」と思い込んでいる点です。大半の需要家はエネルギーデータに関心がありません。スマートメーターのデータも最初の1カ月は見ますが、その後は手間や時間を使ってまで見ないのが現実です。謙虚な姿勢を持って臨むことが必要です。

本誌 需要家が関心を示すデータとは何ですか。

河本 時間やお金に関するデータです。多くの人が頻繁に時間やスケジュールを確認します。お金もどれだけ支出したか、貯金できたか、など関心が高いです。そうしたデータと肩を並べるほど、魅力あるサービスが提示できるかが、成否を分けるでしょう。

本誌 エネルギー会社のデータビジネスの現状をどう見ますか。

河本 多くの企業があるにもかかわらず、欧米のビジネスモデルを踏襲したようなサービスしか出てこないことが気になります。

本誌 柔軟な発想を持って生み出すには何が必要ですか。

河本 優れたサービスを作り出すところまで到達できると思いますが、成功するにはそれを採用する意思決定が必要です。エネルギー会社のこれまでのビジネスモデルとは異なる意思決定が求められます。そこに課題があると思います。

本誌 エネルギー関連で今後注目するデータ活用はありますか。

河本 政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、エネルギーリソースの改善だけではなく、需要家側の制御も必要になると思います。CO2を巡る規制は今後増えるでしょう。CO2関連のコストは上昇していくため、その最適化のためにデータを活用する余地は十分あると考えています。

かわもと・かおる1991年京都大学応用システム科学専攻修了、大阪ガス入社。98年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事。帰社後、2011年からビジネスアナリシスセンター所長。18年4月より現職。