【特集2】安定供給に資する制度設計 長期的視点で電力システム構築

2021年6月3日

電力自由化の進展と供給体制強靭化の要請、そして再生可能エネルギーの導入拡大―。電力システムを巡るさまざまな課題が山積する中、広域機関の果たすべき役割について聞いた。

インタビュー:大山 力/電力広域的運営推進機関理事長

―金本良嗣初代理事長の後を受け、4月1日に電力広域的運営推進機関の理事長に就任されました。まずは就任に当たっての抱負をお聞かせください。

大山 広域機関は、電力の広域的な運用により安定供給を実現するという大きな使命を負っています。そのような機関の理事長に就任するに際しては、大変な大役を任されたと認識しています。

 当機関は2015年の発足以降、連系線の利用ルールや容量市場、需給調整市場の制度設計などに取り組み、私も各委員会に参加しこれらの制度設計に携わってきました。また、私は直接関わっていませんが、広域連系系統のマスタープラン策定も当機関が担う重要な役割です。今後も安定供給に資する制度作りにしっかりと取り組み、より良い日本の電力システムを構築するという使命を全うしていきます。

正解のない自由化市場 公平な系統運用に尽力

―これまでの広域機関の活動の成果をどのように評価していますか。また、昨年度初回のオークションが行われたばかりの容量市場を巡っては、電力業界の内外からさまざまな意見が聞こえてきています。まだまだ紆余曲折がありそうですが。

大山 電力自由化が進展していく中、まさに正解のない世界で、広域機関は電力の安定供給と公平公正なネットワークの運用のために最善を尽くしてきたと評価しています。

 また容量市場については、新しいプレーヤーが増えていく中、旧一般電気事業者が担ってきた安定供給を全ての事業者で分担するための手法として国が選択し、制度議論が始まったものです。

 昨年のオークションでは、1kW当たり1万4137円という上限に近い価格で約定し、関係者の想定を大幅に上回る価格となりました。ですがこれは、日本の電力需給が思っていた以上にひっ迫しているという実情を反映したものとみています。

―実際、今年1月に長期間にわたってkW時不足が発生したことは、それを象徴しているということでしょうか。

大山 火力発電燃料の不足により全国的なkW時不足に陥ったことは、容量市場の仕組みが実効的に動き出す前に問題が顕在化してしまったことを意味しています。容量市場があれば、供給力不足が起こりにくくなることは間違いありません。

―4月には、系統運用事業者が全国一体的な市場から調整力を調達するための需給調整市場も創設されました。

大山 需給調整市場は、これまで系統運用者が、垂直統合型の電力システムによって確保してきた需給調整機能を、送配電分離後も確実に調達できるようにするための市場であり、世界的に見ても正統派の仕組みだといえます。

 今回、取引がスタートした三次調整力②は、太陽光、風力といった自然変動型の再生可能エネルギーの発電予測誤差に対応する調整力であり、今後のより一層の再エネ導入拡大に備えるものです。

 調整力の市場調達は、系統運用事業者にとっても初めての取り組みであり、最初は手探りになるでしょう。問題があればその都度対応し改善を重ねることで、より良い仕組みにしていかなければなりません。

―取引参加者の多くは、大手電力会社の発電部門だと思われます。効率的な調整力の確保に向け、幅広い事業者の参加を促すには何が必要でしょうか。

大山 今のところ、市場参加者のうち大きなウエートを占めるのは、やはり大手電力会社の発電部門です。こうした事業者が義務感だけで参加するのではなく、参加者にとって適正な価格が付く魅力的な市場であることが、市場が正常に機能するために重要なことです。それでこそ、大手電力会社以外の多様な参加者を呼び込むことができるはずです。

電力安定供給の要となる広域機関システム

―1月の需給ひっ迫の要因をどう分析され、今後どのような対策が必要だと考えていますか。

大山 今冬の需給ひっ迫は、相対契約に基づくバランシンググループ(BG)における電力不足ではなく、卸電力市場からの調達分が不足したことが要因です。卸市場が正常に機能し需給バランスが図られることが第一であり、調整力に頼ることはあくまでも最終手段であるべきです。

 そのためには、現状、低い価格水準が続く卸市場が発電事業者にとってもメリットがある市場となるよう、健全な発展を促していかなければなりません。これは非常に大きな話ですので、国など関係各所と連携しながら広域機関として貢献できることがあればその役割を果たしていきます。

安定供給堅持へ 最善の自由化制度を追求

―発足から6年が経過し、改めて組織の中立性が課題として浮上しました。

大山 昨年、第三者による検証が行われ中立性を高めることの重要性が指摘されました。系統運用上の専門的な知識が必要ということもあり、どうしても大手電力会社で系統運用部門を経験してきた人たちに頼らざるを得ないのが現状です。

 ですが、将来の在るべき姿に向け、大手電力会社からの出向者への依存度を下げるためにも、プロパー職員を増やししっかりと教育していく必要があります。一朝一夕に実現できることではありませんので、着実に前進させたいと思います。

―自由化による電力料金上昇の抑制、再エネ大量導入による脱炭素化などさまざまな課題がある中で安定供給を実現するには、非常に難しいかじ取りを迫られることになります。

大山 全てを完璧に達成する解はありません。その中で、脱炭素化に向け再エネ大量導入は進めなければなりませんし、停電が許容されない以上、安定供給を譲ることもできません。この二つを同時に達成するためには料金上昇をゼロにすることは困難です。効率的なシステムを構築することで、経済性への影響を最小限にとどめることを追求していくことになるでしょう。

 シンプルなシステムで自由化を実現し安定供給が図られることが一番ですが、手探りで進めていく中で必要なのであれば、仕組みが複雑化してしまうことはある意味仕方がないことです。100点満点の答えはありませんが、長い目で見て良いと思える電力自由化のシステムを作り上げていきたいと思います。