【特集2】LPガス業界が着手する脱炭素 持続可能性を追求し決断

2021年10月3日

【インタビュー:八木勉/アストモスエネルギー副社長】

日本初となる「カーボンニュートラルLPガス」調達が始まった。脱炭素に対する業界不安を一蹴すべく先陣を切ったアストモスの矢木副社長に話を聞いた。

―LNGに続きLPガスでもカーボンニュートラル(CN)商材が登場しました。日本での初輸入となったCNLPガスの概要について教えてください。

矢木 今回調達したCNLPガスは、オランダ石油大手のロイヤル・ダッチ・シェルの子会社である「シェル・インターナショナル・イースタン・トレーディング社」(シェル)のカーボンクレジットを活用し、LPガスのライフサイクルで発生するCO2をオフセットしたものです。

 クレジットは、シェルが行った植林など海外での環境保全活動に由来するCO2削減量を、国際的な第三者認証機関が確認し、発行した信頼性のあるものです。

 クレジット価格は当社が負担し、シェルは、回収コストを原資にさらなる保全活動に取り組むことになり、温暖化防止サイクルの形成につながっていきます。

業界はCN化の実現性に不安 現実解を示すために調達

―当然クレジットの分、コストは割高になります。大きな経営判断ですね。

矢木 これまで、低炭素で社会に貢献できるエネルギーとして位置付けられてきたLPガスでしたが、昨秋の2050年CN宣言、今春の30年温暖化ガス46%削減目標発表で、一気に削減対象のエネルギーとされ、需要家、特約店をはじめ取引先の皆さまはLPガスの将来に大きな不安を感じているものと思います。

 一方、政府の「グリーン成長戦略」にもうたわれている通り、CN化が図れれば、50年においても相当規模のLPガス需要が残るとされており、現時点でもリアリティーのあるCN化の手段があることを業界内外に示すことでいい刺激をもたらすと考え、今回の調達を決定しました。

 また、CNLPガスの現物を用意し、具体的なマーケティングを開始することで、環境意識の高い潜在需要の発掘、顕在化が図れることも期待しています。

―CNLPガスはどのように活用されていきますか。

矢木 8月中旬に千葉基地に荷揚げし、本格的にマーケティングを開始しましたが、既に、多数の需要家や取引先の皆さまから問い合わせをいただいています。LPガスは品質が均一であり、元来、差別化が難しい商品ですが、CNLPガスには環境価値が付加されており、差別化商材としての販売が期待できます。また、特約店によっては、自社の優良顧客層の囲い込み策として、戦略的なサービス商材としてご活用いただく形もあると考えています。

―ほかのグリーン化の取り組みについての考えは?

矢木 CNLPガスはクレジットで相殺する名目的なものですが、国際的に認められたカーボンオフセット手段の一つです。ただ、LPガスそのもののグリーン化として、バイオLPガスや合成LPガス(プロパネーションなど)の技術開発、商用化の道筋も付けなければなりません。日本LPガス協会を中心に業界全体での取り組みが検討されていますが、当社としても産学、異業種連携、スタートアップ企業の発掘など、多面的な取り組みを展開したいと考えています。

―それぞれどのような課題認識でしょうか。

矢木 バイオLPガスは欧米で商用化されている前例もありますが、SAFやバイオディーゼルの副産品として生産量は数十万tレベルにとどまっており、LPガスを目的生産物としたプロセスの研究、実用化が必要です。国内のバイオ原料は、古紙や家畜ふん尿、下水汚泥、間伐材など、地方の実情に応じた廃棄資源が利用できる半面、原料調達面の制約から「地産地消」とならざるを得ず、地方に強い、LPガスの既存流通ネットワークの活用が可能です。

 LPガスは元来、分散型で需給調整機能に秀でたミドルエネルギーとしての特長があり、今後、普及が進む不安定な太陽光、風力などの再エネのバックアップ電源や熱源としてバイオLPガスを組み込むことで、地方のCN化との親和性をさらに高めることができると考えています。

―プロパネーションについては。

矢木 CO2とH2(水素)から炭化水素を作り出す技術で、石油産業で確立されているガスtoリキッドの技術が応用できると考えられます。ただ、ガス化技術はまだ基礎研究レベルで、ガス製造に至るための技術開発は、これからの段階です。

 50年以降もLPガスが顧客のエネルギー選択肢の中で存在感を発揮できるよう、LPガスの低炭素化、脱炭素化に向け、業界を挙げて早急に取り組むことが、われわれの使命だと思っています。

―輸送船のCO2削減にも取り組んでいます。

矢木 LPガスと重油の両方が使えるエンジンを搭載したデュアルフューエル(DF)船、「クリスタル・アステリア」号(川崎重工業製)が本年9月に就航しました。これも日本初の取り組みです。LPガス燃料は重油と比べCO2を約20%、SOXを約95%削減でき、航行中のGHG排出抑制につながります。また、産ガス国で積んだLPガスの一部を燃料に使うのでバンカーバージ船(燃料補給船)の手配が不要となり、機動的な運航が可能となります。

 IMO(国際海事機関)の環境規制も年々厳格化されてきており、今後ともDF船は世界的に増加していくと見られますが、当社としても高齢船のリプレースに合わせ、DF船など、技術革新に応じた環境対応船の投入を図っていき、輸送部門での低炭素化を実現していく方針です。

―政策要望はありますか。

矢木 今回調達したCNLPガスのクレジットは海外由来ということもあり、国内での省エネ法や、地球温暖化対策推進法、RE100企業でのCO2削減カウント(オフセット)には適用されず、需要家サイドでの数値的な評価に結び付き難い側面があります。CNは全世界的な取り組みであり、海外由来のクレジットの適用についても検討をお願いしたいです。